【小説】村上春樹「ドライブ・マイ・カー」【感想・あらすじ】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
最近は天気があまり良くなくて洗濯物がカラッと乾かず困っています。早く梅雨が明けてほしいです。
今日お話しするのは、村上春樹さんの「ドライブ・マイ・カー」です。

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あらすじ

還暦間近の俳優・家福は女優の妻を癌で亡くします。夫婦の間には、3日間だけ生きた子供がいました。原因は、生まれつきの心臓の問題でした。妻はもう子供を望まず、子供を亡くした後から家福が知り得るだけでも4人の共演俳優と関係を持っていました。妻を愛していた家福は、妻が亡くなった後、そのことに今もなお苦しんでいます。
愛車で接触事故を起こした家福は、運転手としてみさきを雇います。みさきは家庭環境に恵まれない無口でぶっきらぼうな女性でした。
孤独な二人が、車の中で交わす会話が物語を紡ぎます。

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ひとり言

村上春樹さんの「ドライブ・マイ・カー」を読みました。この作品は、表題作を含む六編の短編集「女のいない男たち」の中の一編です。
演技派の脇役俳優と評価されている家福は、49歳の時2歳歳下の女優の妻を子宮癌で亡くしています。家福は、妻と初めて出会った29歳の時からずっと妻を心から愛していました。家福と妻の間には、3日間だけ生きた子供がいました。亡くなった原因は、生まれつき心臓の弁に問題があったというのが病院側の説明でした。子供を亡くした後、妻は「もう子供は作りたくない」と言い、家福もその思いを受け入れます。夫婦は辛く苦しい日々を過ごしますが、家福は時の経過と共に、お互いに何とか悲しみを乗り越える事が出来たと思っていました。乗り切れたと思っていたのは家福だけで、妻はまだ傷心から立ち直ることが出来ずにいたのではないかと思いました。
子供が亡くなった後、妻は家福が知っているだけでも4人の共演俳優と関係を持っていました。そしてその関係は、撮影が終了すると同時に終了していました。妻の生前中も「なぜ良好な関係だったのに、他の男と関係を持ったのか。他の男に何を求め、妻にとって自分の何が足りなかったのか」と何度も妻に問い質したいと思っていましたが、結局何も聞くことが出来ないまま、妻は亡くなります。そうした蟠りに家福は今なお苦しんでいます。
妻が亡くなって半年後、家福は共演中妻と関係を持っていた俳優の高槻と、偶然テレビ局で出会います。家福は、妻に直接聞けなかったことの真相を探り、機会があれば懲らしめようと高槻に近づきます。何度か会って話すうち、高槻は妻のことを本気で愛していたことが判ります。そして半年程付き合う中、高槻が言った「本当に相手を見たいと望むのなら、自分自身を真っ直ぐに見つめるしかない」という言葉を聞いて、家福は急にいろいろな事がどうでも良くなります。そしてもう高槻の前で演じる必要がなくなったと感じた家福は、高槻と会うことを止めます。どれほど愛しあっていても、相手の事を完全に理解することは難しいことです。家福は、高槻の言葉を聞いて、最後は自分の心情と向きあって相手のことを理解するしかないことに気づいたのではないかと思いました。
還暦間近になった家福は愛車の黄色のサーブ900コンバーティブルで、接触事故を起こします。少し飲酒していたのと緑内障で視力に問題があり、免許停止になってしまいます。
黄色いボディーカラーは妻の選択で、妻と一緒にドライブに行ったサーブは、家福にとって思い入れのある車でした。
家福は移動中、車の中でセリフの練習をしたいと思い、サーブの運転手を探します。知り合いから紹介されて来たのは、無口でぶっきらぼうな渡利みさきでした。同乗してみると運転の腕は確かで、彼女は家福の専属運転手になります。
お互いに無口な二人でしたが、何度か同乗するうちに次第にいろいろな話をするようになります。みさきが24歳だと聞いた家福は、子供が生きていれば今24歳になっていたはずだと思い、亡き子供のことを思い出します。
みさきの父親はみさきが8歳の時、妻子を捨てて家を出て行き、母親は酒に溺れ、その挙句飲酒運転で事故を起こしてみさきが17歳の時亡くなったと言います。
「友達は作らないのか」と聞くみさきに家福は、「最後に友達を作ったのは10年近く前だった」と言い、それから妻や高槻とのことを話します。
未だに妻の行為を理解することが出来ず、蟠りを持ったままの家福に、話を聞き終わったみさきが言います。「奥さんは、心なんて惹かれていなかった。だから寝たんです。女の人にはそういうところがあるんです。考えてどうなるものでもありません」と。
そうした会話の後家福は「少し眠るよ」と言い、みさきは答えず黙って運転し続けます。家福はその沈黙に感謝します。
雇用関係にある孤独な二人が、身の上話までするようになりました。今後の二人の関係はわかりませんが、友達のいない孤独な二人にとってお互いは、少なくとも車の中で、今まで誰にも言えずにいたことをさらけ出すことの出来る存在になったのではないかと思いました。
妻の取った夫への裏切り行為は、家福を深く傷つけました。この小説は家福の目線で描かれているので私の個人的な憶測ですが、家福の妻は、自分を傷つける行為によって深く傷ついた痛みを紛らわすため、心は家福の元に置いて、相手に心惹かれることもなく共演者の俳優と関係を持ち、共演後は関係を終わらせたのではないかと思いました。十か月間自分の体内で大事に育てた子供を生後3日で亡くした母親の気持ちを考えると、そう簡単に立ち直ることはできないと思います。もし家福に足りないものがあったとすれば、子供を亡くした妻の心の深層を見逃していたことではないでしょうか。子供を亡くした時の大きな悲しみは、男性と女性とでは種類が違うのではないかと感じました。
大切なのは心なのだと自分を納得させようと思っても、人間の感情はそう簡単に割り切れるものではないと思います。相手の真意を問う事が出来ないまま蟠りの残る状態で残された者は、何とか自分の心に折り合いをつけて前を向いて生きていくしかないのでしょうか。

今日が幸せな一日でありますように。