ご挨拶
こんにちは、こんばんは、ちまです。
もうすぐゴールデンウィークですね。
今年のゴールデンウィークは、お家でまったり猫たちの新作動画を撮る日々にしようかなと思っています。
今日お話しするのは、萩原浩さんの「明日の記憶」です。
あらすじ
広告代理店営業部長の佐伯は、齢五十にして若年性アルツハイマーと診断された。仕事では重要な案件を抱え、一人娘は結婚を間近に控えていた。銀婚式をすませた妻との穏やかな思い出さえも、病は残酷に奪い去っていく。けれども彼を取り巻くいくつもの深い愛は、失われゆく記憶を、はるか明日に甦らせるだろう。
ひとり言
萩原 浩さんの「明日の記憶」を読みました。
『「誰だっけ。ほら、あの人」
最近、こんなせりふが多くなった。
「俳優だよ。あれに出てた。外国の俳優だ」
代名詞ばかりで、固有名詞が出てこない。』
この小説の冒頭の文章です。
主人公の佐伯雅行は、50歳で広告代理店の営業部で部長として第一線で活躍しています。
一人娘の梨恵の結婚式を数ヶ月後に控え、妻の枝実子と充実した日々を過ごしていました。
そうした中、雅行は物忘れするようになり、仕事にも支障をきたすようになります。
そして、枝実子と行った病院で、若年性アルツハイマーと診断されるのです。
その時から、雅行と枝実子のアルツハイマーとの闘いが始まります。現代医学では、進行を遅らせることは出来ても治る見込みのない病との闘いです。
枝実子はアルツハイマーを何とか食い止めようと、アルミ鍋を全て捨て、食事内容にも気を配り、家中に説明メモを貼り付ける等、諦めることなく夫の病と闘います。病への怖れから高額の数珠を購入して、雅行と険悪になったりしますが、気丈に明るく振る舞い、雅行を支えます。温かく思いやりのある強い女性です。
雅行も、こぼれ落ちる記憶を何とか留めておこうと片っ端からメモを取るようになります。
忘れていくことへの恐怖や焦りに襲われながらも、二人で前向きに病と闘っているのです。
そうした中、会社では部下の密告により、雅行がアルツハイマーであることを上司が知ることになり、退職を勧められます。娘の結婚式までは広告代理店部長の肩書きで頑張りたいとの思いから必死に頼み込み、左遷はされるものの何とか退職は免れます。いちばん自分らしい自分で娘の結婚式に出席したいという強い思いによる雅行の必死の行動です。
自分の記憶と闘うために、雅行の必死の努力が続きます。本当に、心が痛くなるような、忘れていくこととの闘いです。
そうした日々の生活の中で、雅行はアルツハイマーであることを唯一打ち明けた陶芸の先生に、記憶を失うことを利用して裏切られます。哀しい現実です。どんな理由があったにしても、人間として決してしてはならないことです。雅行はどんなに傷ついたことでしょう。
でも、そうした記憶も失われて行きます
娘の結婚式までは会社に在籍していたいと頑張っていた雅行は、娘の結婚式も終わり、病気の進行によって仕事をするのも困難になったため、慕ってくれた部下達に別れを告げて退職します。その後初孫にも恵まれ、幸せなひと時を過ごします。
雅行の備忘録は誤字が増え、平仮名が増え、字体も崩れるようになってきます。それでも雅行はメモを取り続けます。そんな雅行を枝実子は気丈に、温かく支え続けます。
けれども、病気は雅行や枝実子の必死の努力も虚しく確実に進行していき、被害妄想まで出るようになり、日常生活すら困難をきたすようになってきます。
そんな自分の状態を危惧した雅行は、痴呆症患者の施設を探そうとします。でも枝実子は「絶対に嫌です」と取り合いません。今まで必死に雅行を支えてきた枝実子の気持ちは、痛いほどわかります。
雅行は枝実子には知らせず、万全を期して、一人で介護ホームの見学に行きます。その帰り道、若い頃の枝実子の幻影に導かれ、枝実子と通ったことのある陶芸教室の廃屋に辿り着きます。そして、かつてお世話になった陶芸の先生と再会するのです。
先生は痴呆が進んでいました。そんな先生と作品を焼いたり、食事をしたりして一晩一緒に過ごした翌日、雅行は家へ帰ります。
家に帰る途中、心配して探しに来た枝実子と出会います。でも、もう雅行には枝実子を認識することはできなくなっていました。
道に迷ったと勘違いした雅行は枝実子に声をかけます。「心配しないで。だいじょうぶですよ。この道で間違いない。僕がずっと一緒にいきますから」
そして雅行は、まず自分が名乗り、名前を尋ねます。
しばらくして枝実子が言います。「枝実子っていいます。枝に実る子と書いて、枝実子」
雅行が言います。「いい名前ですね」
あっ、これが「明日の記憶」なのだと思いました。
「過去に体験したことや覚えたことを、忘れずに心にとめておくこと」が記憶であるのなら、過去の生きた軌跡が明日への記憶に繋がって行くのではないでしょうか。
徐々に記憶を失っていく過程は、本当に怖いと思います。決して他人事ではありません。でも、未来を想像することによって少しずつ生きる希望も見えてきます。
現実は、雅行を探しに来た枝実子と雅行が出会った場面で終わるわけではありません。
ここから、また二人の新たな生活が始まるのです。
「明日の記憶」を目指して、二人で強く生きて欲しいと切に願いました。
今日が幸せな一日でありますように。