【感想】重松 清「卒業」【あらすじ付き】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
最近図書館に行くとご年配の方が多く若い子が少ないなと思いました。
若い子は電子書籍などを利用する方が増えてきてるんですかね?
私は紙派なので今でも図書館は欠かせない場所です。
今日お話しするのは、重松清さんの「卒業」です。

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あらすじ

「わたしの父親ってどんなひとだったんですか」ある日突然、十四年前に自ら命を絶った親友の娘が僕を訪ねてきた。中学生の彼女もまた、生と死を巡る深刻な悩みを抱えていた。僕は彼女を死から引き離そうと、亡き親友との青春時代の思い出を語り始めたのだが――。

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ひとり言

重松清さんの「卒業」を読みました。
野口亜弥は14歳、中学2年生です。亜弥の父伊藤は14年前の七月八日の未明、亜弥がまだ母親のお腹にいる時に自ら命を断ちました。勤務していた会社のビルの非常階段の七階の踊り場から飛び降りたのです。踊り場に三本の煙草の吸殻を残して、遺書は「サ・ヨ・ナ・ラ」の形に煙草を並べただけでした。
ある日突然、渡辺の会社に大学からの親友だった伊藤の娘亜弥が訪ねて来ます。
亜弥は渡辺に尋ねます。「わたしの父親って、どんな人だったのか知りたいんです」
そして、その時亜弥は、リストカットしたことがある事を打ち明けます。
渡辺は亜弥から、母親の香織は野口という人と再婚し、スペイン料理のレストランを営んでいることを聞きます。そして帰宅後、そのレストランの情報をネットで探していた時、亜弥が『伊藤真のお墓』というサイトを起ち上げ、伊藤の情報を求めていることを知ります。
渡辺はすぐ亜弥に、「伊藤くんのことを思い出しておくので、連絡してください」とメッセージを送ります。
亜弥から、渡辺と伊藤が通っていた大学の学部の校舎で待っているとのメッセージを受け取った渡辺は、待ち合わせ場所に行きます。
その時渡辺は、「まだ死なないの?みんな待ってるから早く死んでください」など亜弥の死を待っているような多くのメールが送られて、亜弥がいじめを受けていることを知ります。亜弥がリストカットをした原因です。自殺した父親のことを知りたいと思う理由でもありました。
亜弥は、中学入学の時に、両親から自分の本当の父親のことを知らされます。
亜弥のことを本当の娘のように育てていた野口が、亜弥に嘘をつきたくないという思いから行なった真実の告白です。野口にとっては、本当に身を切られるような辛い告白だったと思います。それにも増して、まだ中学生になったばかりの亜弥にとっては、抱えきれないほどの衝撃だったと思います。
今まで本当の父親だと思っていた優しい父親の野口は育ての親だったのです。
亜弥は渡辺に言います。「今まで存在がゼロだったひとが、いきなり登場するわけ。思い出もなにもないのに、あんたの父親は自殺しちゃったんだよって。好きになるとか憎むとか、できないよ、なんにもないんだから」「あのひとのこと、たくさん知っとかないと、親子の絆が自殺だけでした、なんて寂しいじゃないですか」
亜弥と会ったその夜から、渡辺は『伊藤真のお墓』の掲示板に、思い出す限りの伊藤のことを書き送ります。そして、渡辺と亜弥のサイトのやり取りが始まります。
渡辺は、2週間程はサイトに思い出す限りの伊藤との思い出を書き込みますが、3週間も経つと書く内容に限界がきてしまいます。伊藤のことを何とか思い出して書き込みをした掲示板に、亜弥からの返信はありませんでした。
そうした時、渡辺に会社から関連会社への出向の辞令が出ます。収入が大幅に下がる異動です。
出向の辞令を受け取った午後、渡辺は亜弥の両親に会いに行きます。そして、野口と香織に今までの亜弥とのやり取りのすべてを話します。
話し終えた後、亜弥の現状を聞くと「病院です」「学校の、校舎の二階から飛び降りたんです」と野口は答えます。
いじめグループに「死んでみろ」と言われ「死んでやる」と言い返した結果の出来事でした。右脚の膝と脛を骨折して、全治二カ月でした。
野口は亜弥がいじめを受けていたことを知らなかったことに、父親として失格だと悔しい思いをしてます。そして、「あとは、もう、僕らに任せてください」と渡辺を拒否し、渡辺の「香織さんに、結婚してからの伊藤のことを、亜弥さんに教えてあげて欲しい」という最後のお願いも断ります。香織からも、もう亜弥に会わないよう、頼まれます。
3週間後、『伊藤のお墓』の掲示板に野口からの書き込みが入ります。
〈渡辺さんお目にかかれませんか。午後三時から五時までなら毎日、私一人で、店にいます〉
渡辺は翌日、野口に会いに行きます。
そこで、亜弥のいじめはもう大丈夫そうなこと、野口は仕事が終わった後、毎日病院に行って、自分の昔話をしていることなどを聞きます。野口は、言います。「ライバルは伊藤さんですよ、負けたくなくてね」野口は亜弥にとって、本当に正直で暖かくて素敵な父親です。
渡辺は、亜弥の両親の協力を得て、亜弥の夜間外出許可や伊藤の勤めていた会社の立ち入り許可などの手筈を整え、七月七日の午後五時、亜弥の病室を初めて訪ねます。
亜弥から、『伊藤のお墓』は、家族で話し合って、このまま残すことに決めたことを聞きます。亜弥も亜弥の両親も、拒絶していた伊藤のことを受け入れる一歩を踏み出したのだと思いました。
渡辺は突然、亜弥に言います。「今夜、伊藤の最後に見た風景を、一緒に見てみないか」「いやならいいんだ」「午前一時に、一階のロビーに迎えに来るから。もし行きたいんなら、降りて待っててくれ」
その夜、渡辺が家を出る前に『伊藤真のお墓』の掲示板に新たなメッセージが入ります。
〈わたしたちは元気です。家族みんなで支え合って、毎日を過ごしています。亜弥のことを、これからもずっと見守ってあげてください〉
亜弥の両親は、伊藤のことを受け入れることができ、これまでの葛藤から卒業することができたのだと感じました。
伊藤が亡くなった七月八日の未明、渡辺と亜弥は伊藤が勤めていた会社の七階の非常階段の踊り場にいます。渡辺と亜弥は、自殺未遂のことやリストラのことを語り合います。
渡辺は亜弥から言われます。「渡辺さんは自殺しちゃだめですよ」
伊藤が飛び降りたと思われる午前二時半が過ぎます。渡辺は三本目の煙草に火を点けます。
そして亜弥は夜空を見つめて言います。「身勝手で、弱くて・・・生まれ変わったら、ちゃんとやってよ、お父さん・・・」
渡辺は、伊藤の吸えなかった四本目の煙草に火を点けます。
二人もまた今までのそれぞれの葛藤を乗り越えることが出来たのだと思いました。それぞれの「卒業」です。
そして亜弥は、松葉杖を大きく降り出して、幅跳びをするみたいに、迎えに来た野口の胸に抱きつくのです。
新たなスタートを切ることが出来たのだと思いました。ここからまたそれぞれの新たな生活が始まります。
読み終えた後、野口さんの営むレストランに行ってみたくなりました。魚料理を頼む時は、野口さんの機嫌が良い時に行かないと喉に小骨が刺さるかもしれませんね。

今日が幸せな一日でありますように。