【感想】桜木 紫乃「砂上」【あらすじ付き】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
ようやく季節に合った暖かさになってきましたね。
今日お話しするのは、桜木紫乃さんの「砂上」です。

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あらすじ

「あなた、なぜ小説を書くんですか」北海道・江別で平坦な生活を送る柊令央は、応募原稿を読んだという編集者に問われ、渾身の一作を書く決意をする。いつか作家になりたいと思いつつ40歳を迎えた令央にとって、書く題材は、亡き母と守り通した家族の秘密しかなかった。執筆にのめりこむうち、令央の心身にも、もともと希薄だった人間関係にも亀裂が生じはじめる―。

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ひとり言

桜木紫乃さんの「砂上」を読みました。
主人公である40歳の柊令央は 、離婚後、母のミオと北海道の江別市で木造の一軒家に暮らしています。時折、エッセーや短編小説を投稿しながら、元夫からの慰謝料と幼馴染が営むビストロのバイト代で何とか生計を維持しています。
令央には、年の離れた美利という妹がいます。でも美利は実際には、令央が16歳の時に産んだ子なのです。令央の母のミオは令央に産むことをすすめ、自分の子供として育てます。助産師と母と令央の3人だけの秘密です。でも、美利は自分の生い立ちに気づいていました。
ミオが60歳の若さで急死したところからこの物語は始まります。
令央のもとに小川乙三という女性編集者が訪ねてきます。
そして令央に、以前、新人賞に応募した小説「砂上」を書き直して完成することを勧めます。その時、乙三は令央に「主体性のなさって、文章に出ますよね」と切り出します。
令央が「主体性のある文章って、どうやったら書けるようになりますか」と訊ねると、乙三は「自分の意思で、書きたいように書けばいいじゃないですか」と答えます。
そんなやりとりの後、令央は「砂上」を書き直してみようと思うのです。
「砂上」は令央と自分の家族のことを書いた小説です。
「砂上」は、乙三から何度も何度も書き直しを要求されます。そしてその都度、令央は乙三から
「屈託とか葛藤とか、簡単な二字熟語でおさまらない話が読みたいんですよね」「大嘘を吐くには真実と細かな現実が必要なんです。書き手が傷つきもしない物語が読まれたためしはありません」「経験が書かせる経験なき一行を待っています」など容赦ないアドバイスを受けるのです。
容赦ない多くのアドバイスに戸惑いながらも、令央は「砂上」を完成させるために書き続けます。
そうした中で、お金の都合で実家に戻ってきていた美利との関係も徐々に変わっていきます。
「私は関係ないみたいないつも第三者きどりのあんたがムカつく」と言っていた美利も、小説を書くことに熱中し、のめり込んでいる玲央の姿を見て「玲央変わったね」と言うようになっていくのです。
令央は、自分の家族のことを書いた「砂上」を完成させるため、今までは無関心だった母ミオの過去を知りたいと思うようになります。美利を産む時も相手の事など一切聞かなかった母です。
そして、ミオが自分を産んだ経緯(いきさつ)などが明らかになるうちに、令央は母ミオや娘の美利、そして編集者の乙三から主体性のない人と指摘されていた自分自身のありのままの姿を受け入れることが出来るようになっていくのです。
自分から行動を起こさない主体性のない玲央が、「砂上」の文章の変化と共に変わっていきます。そして「砂上」は完成された文章となるのです。
乙三のアドバイスによる影響も大きいですが、ミオの死によって初めて完成された作品になったのだと思いました。
私は、特異な生い立ちの美利の存在感に驚きました。
美利は令央に言います。「母親なんて、誰でもいいんだよ。父親がどれでもいいように、あたしには根っこなんて必要ないの」「令央の場合はまったく泥を被らないで被害者を気取るんだよ。たまには自分の手を汚してみなよ」
でも、令央が変わっていくのとともに美利も変わっていったように思いました。それまでの硬さが徐々に取れて、優しい雰囲氣になったように感じました。ミオと令央は、自分の意思で子供を産みました。でも美利は、令央とミオの決断でこの世に生を受けました。自分で自分の存在を認めなければならない美利の強さを感じました。
『「人に評価されたいうちは、人を超えない」という言葉は、いつまでも令央を傷つけます。そして、そのたびに乙三のひとことがその傷を癒やしてゆくのです。』
「砂上」の出版が決まった後の令央を表している文章です。
「何かをやりとげた後、人は変わることができる。そして、また新しい何かを始めることができる」だから「前向きに生きて行こう」
読み終えた後、そういう風に感じることの出来る一冊でした。

今日が幸せな一日でありますように。