【猫と読む】吉田 修一「東京湾景」【ちまのひとり言】

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雑記
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
寒くなってきましたね。季節が変わったので何を着たらいいか考えてしまいます。
今日お話しするのは、吉田修一さんの「東京湾景」です。

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あらすじ

「愛してないから、こんなに自由になれるの」「それでも、お前と一緒にいたかったんだよ」。品川埠頭の倉庫街で暮らし働く亮介が、携帯サイトの「涼子」と初めて出会った25歳の誕生日。嘘と隠し事で仕掛けあう互いのゲームの目論見は、突然に押し寄せた愛おしさにかき消え、二人は運命の恋に翻弄される。

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ひとり言

吉田修一さんの「東京湾景」を読みました。
25歳の和田亮介は、品川埠頭にある船積貨物倉庫に勤務し、品川にある会社の寮で暮らしています。高校時代に英語教師と付き合い、卒業後は同棲していましたが、ある出来事のためその恋愛が終わってからは「どんなに愛してもいつか終わりが来る」と、恋愛を冷めた目でしか見られなくなっています。
28歳の平井美緒は、お台場にある大手石油会社の広報部に勤務するOLです。美緒は、恋愛に対して熱い気持ちを持てないけれども、心の奥底では愛を追い求めています。
二人は、亮介の誕生日の夜、軽い気持ちで登録した出会い系サイトで出会います。私は、出会い系サイトというものに偏見を持っているせいか、二人の出会いの仕方が少し残念でした。亮介は、自分の名前や年齢、仕事など本当のことを話しますが、美緒は、名前を涼子と偽り、仕事も偽っていました。美緒は、こうした出会いの仕方に不安を感じていたのでしょう。待ち合わせ場所は、モノレールに乗ってみたいという涼子の希望で、羽田空港になりました。東京モノレールや東京湾を挟む品川埠頭、お台場といったシュチュエーションが、この物語の重要なアイテムになっています。
恋愛に対してどこか冷めた目で見ている二人は、モノレールの中で気まずい雰囲気になってしまい、結局二人はそのまま別れます。涼子と連絡の取れなくなった亮介は、彼女が話していた職場を訪れますが、その仕事は彼女の嘘でした。自分の気持ちを持て余した亮介は、スクーターを走らせながら岸壁ぎりぎりに止まるようにブレーキをかけるという行為で、自分の気持ちを抑えようとします。十代の激しい恋愛体験からの自分の感情と、涼子と会ってからの自分の感情を持て余している亮介の孤独と焦りが伝わってきます。
けれども、涼子のことが忘れられずにいた亮介は、最後に、モノレールと書いただけのメールを涼子に送信します。すると、意外にも涼子から返信があり、二人は付き合い始めます。お互いに惹かれ合い、お互いの本音を少しずつ出しながらも、どこか相手に違和感を持ったままの付き合いは続きます。
その後あることをきっかけに、亮介は涼子の本名は平井美緒であることを知り、美緒も亮介の過去の恋愛を知ることになります。亮介は、同棲していた恋人の親族の前で、自分たちの純粋な心の繋がりを証明するため、自らの身体に灯油をかけ火をつけたのです。若さゆえの行為とばかりは言えない、現在の亮介からは想像も出来ないような、自分の感情をコントロールできない亮介の一面を見たような気がしました。
そのことをきっかけに、二人の想いはすれ違っていきます。真っ直ぐでひたむきな亮介と自分の本心を誰にも見せようとしない美緒ですが、二人とも、この関係に終わりが来ることを
怖れてお互いの本当の想いを知ろうとしません。美緒の同期で親友でもある佳乃の「美緒も亮介くんも何も始めてないじゃない。始まるのが怖くて、お互いに目をつぶったまま抱き合ってただけじゃない!」という言葉がとても核心を突いていて印象的でした。
その後亮介からの電話で、二人とも約束をしていた待ち合わせ場所に行かなかったことが分かります。その時亮介が言った「ずっと、お互い相手を探ってるっていうか。信じようと思うのに、それがなかなかできないっていうか」という言葉に対して、美緒の「ほんと、なんでだろうね?」という言葉のやり取りに、これまでの二人の付き合い方が全て表されているように思いました。
そして品川埠頭にいる亮介が、台場にいる美緒に向かって「東京湾を泳いで美緒のところまで行ったら、俺のことずっと好きでいてくれる?」と聞くと、美緒が「いいよ。本当に亮介が泳いできたら、絶対に、ずっと好きでいる」と答えます。そして物語は、『美緒が目を閉じると、亮介が懸命に東京湾を泳いでくる姿が浮かび、彼の何かが、東京湾をまっすぐに、今、自分のほうへ泳いできている』という文章で結ばれています。やっと二人が本音で語り合えたのだと思いました。
相手に愛を感じながらも、どんなに愛していてもいつかは終わると感じながらする恋愛は、とても辛いと思います。それでも二人は心の中のどこかで、永遠に続く愛を求めていたのだと思いました。 未来を見据えて生きることは大事ですが、今の自分の気持ちに真正面から向き合うことこそ、その後の自分に繋がって行くのではないかと感じた作品でした。
読み終えた後、作者によって描かれた、十年後の二人の姿を読んでみたいと思いました。

今日が幸せな一日でありますように。

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