【感想】馳 星周「少年と犬」【あらすじ付き】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
伸びをしたら背中を攣りました。地味に痛くて困りました(笑)
今日お話しするのは、馳 星周さんの「少年と犬」です。

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あらすじ

2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。
ある日和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了された。
その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けることに。
そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の「守り神」になった。
だが、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていた。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか……。

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ひとり言

馳 星周さんの「少年と犬」を読みました。
物語は東日本大震災の半年後、宮城県仙台市で野良犬となった「多聞」が、生活の為に犯罪に手を染める中垣 和正に拾われるところから始まります。
和正はコンビニの前で、痩せ細ったシェパードに似た犬を見かけます。その犬の首輪にはタグが付いていて、『多聞』と書かれていました。
多聞は非常に賢く、和正は多聞に惹かれ、連れて帰り飼うことにします。多聞は車の中で、いつも南の方角に顔を向けていて、和正は多聞は南の地へ行きたがっているのだと思います。多聞のおかげで、認知症の母も明るさを取り戻し幸せなひと時が訪れますが、幸せは永くは続かず、和正は犯罪絡みの事故で命を落とします。和正と多聞を頼りにしていた母親と姉の行く末が思いやられ、とても心配になりました。
多聞は、外国人の窃盗団の一員の男性に連れられ新潟へ、その後、富山でお互いに向き合うことが出来ず関係が壊れかけている夫婦、滋賀で付き合っている男性のために風俗嬢になった女性、島根で妻と相棒の犬を亡くし末期ガンを患っている老人に飼われながら、南の方角を目指します。島根に住む老人は、遺言として信頼出来る人に、「多聞を九州に連れて行って欲しい」と頼みます。
此処に至るまで、多聞は様々な問題を抱えて孤独な人に、不思議な力で一時の安らぎと救いを与えます。そして、多聞と暮らした人はみんな、多聞が南の方へ行きたがっているのに気付き、多聞の願いを叶えようとするのです。多聞の持つ不思議な魅力が、彼らにそうさせたのだと思いました。
多聞は何を求めて南の方へ行こうとしているのでしょうか。タイトルにもなっている「少年と犬」の最終話で、5年に渡る多聞のこれまでの行動の謎が明らかになります。
岩手の釜石で漁師をしていた内村徹は、震災で家も船も失い、3歳の息子の光と妻と共に熊本に移住します。光は、震災のショックで喋ることも笑うことも出来なくなり、一日に何枚も動物と思われる絵を書き続けています。そうしたある日、徹はガリガリに痩せて、怪我をしている多聞を見つけ、家に連れて帰ります。多聞は玄関先で物音がすると、凄い勢いで尻尾を振り、光も多聞を見つけると、裸足で駆け寄り破顔して多聞に触れます。それから光と多聞は強い絆で結ばれ、光は話すことが出来るようになります。
その後、光と多聞は岩手の公園でしょっちゅう遊んでいて、多聞の飼い主は津波で亡くなっていたことがわかります。多聞は、少年に会いたい一心で、5年の月日を経て釜石から熊本までたどり着いたのです。
けれども、今度は熊本を大地震が襲い、二度目の地震で多聞は光を身を持って守り命を落とします。私は、多聞は大地震から光の命を守るために、命がけで光の元へやって来たのだと思いました。光はまた元の状態に戻ってしまうのではないのかと心が痛くなりましたが、光は再び多聞と出会うことが出来たことで、多聞との強い信頼関係を築き、強くなっていました。
光は言います。「多聞はぼくの胸の中でずっと生きている。大丈夫。ぼく、多聞を感じられるから。今だってすぐそばにいるよ」と。
私も辛い時も嬉しい時もいつもそばにいてくれた、かけがえのない相棒との辛い別れがありました。彼の優しい眼差しや声、舌や毛並みの感触は今でも鮮明に残っていて、今でもずっとそばで寄り添ってくれています。
地震や津波、原発の事故によって、かけがえのない多くの命や物が奪われた東日本大震災、そして残された人や動物の心の痛みは、決して人ごとではありません。東日本大震災に限らず、私たちはこうした事実を風化させることなく、これからの教訓にする義務があると思いました。日常が突然、非日常になった時、私たちはどう生きていったら良いのかをこの一冊に教えてもらったような気がします。
最後に徹のSNSのアカウントに、多聞の旅の最初の飼い主になった男性の姉から届いたメッセージが書かれています。残された人が力強く生きていることが窺い知れ、作者の優しさを感じました。
読んでいる最中、多聞と亡くなった私の相棒の姿がオーバーラップしてしまい、平常心で読み進めることが出来ませんでした。様々な立場の人に、生きる勇気を与えてくれる本の力を改めて感じた一冊でした。

今日が幸せな一日でありますように。