【小説】村上 龍「MISSING 失われているもの」【感想・あらすじ】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
録音をしようとしたら、突然背中をつりました。どうしていいか分からずしばらく痛みと闘ってました。
今日お話しするのは、村上 龍さんの「MISSING 失われているもの」です。

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あらすじ

小説家の「わたし」は、数年前から現実と幻想の境がわからなくなりカウンセリングを受けています。そうした中、「わたし」の前にかつて知り合った女優の真理子が現れます。現実か幻想かわからないまま真理子に導かれて行くと、母の声が聞こえるようになり、自分自身の過去を思い巡らすようになります。小説家の「わたし」は苦悩の後・・・

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ひとり言

村上 龍さんの「MISSING 失われているもの」を読みました。
この小説は、抑うつや不眠のため心療内科でカウンセリングを受けている小説家の「わたし」に、飼い猫の声が聞こえたことから始まります。「わたし」は、猫の言葉は自分が思ったり考えたりしたことが猫に反射される形で自分に返っていて、つまりは自分の言葉であることに気付きます。「わたし」は猫の言葉に従って、かつて知り合った女優の真理子に会い、彼女に導かれるように現実と幻想が交錯する無意識の世界に入って行きます。するとやがて母の声が聞こえてきて、子供の頃から体験していた三本の光の束がスクリーンとなって過去のさまざまな映像が見えてきます。現実の母は、郷里の施設に入っているので、明らかに母の声は幻聴です。
母は自分の旧朝鮮からの引き揚げ体験を語り、「わたし」の幼少期からの出来事を語ります。幻想の中で語る母の話で自分を回顧することによって、自分の生い立ちやその後の「わたし」を自己分析しながら描写しているのだと思いました。
母は、幼少期の「わたし」は、一人で積み木で自分の〈王国〉を作る遊びに夢中になっている内向的な子供だったと言います。「わたし」は、十代の終わり頃から小説を書こうとしますが上手くいかず、挫折しかかった心を救ったのは、積み木で〈王国〉を作った時の充実感でした。そして、そうした経験が「わたし」のデビュー作に繋がります。
両親の描写も出てきます。「わたし」の母と父に対する想いには大きな隔たりがあるように感じました。親は、自分の過去を振り返るためには切り離すことはできない存在です。特に母の「困っている人を助けると、いつか自分も助けられる」という言葉は、その後の「わたし」に大きな影響を与えたのではないかと思いました。また母の「あなたは立ち止まりたかっただけ」という言葉と、心療内科医の「あなたは安堵がない状態は苦しいので、表層で安堵が欲しいと思っているけれど、心の深層では、安堵する自分を許せないと思っている。あなたの表現活動が安堵の問題と深く関わっていると思っている」と 言う言葉が、小説家として作品を生み出す「わたし」の苦悩の深さを物語っているように感じました。
「わたし」は、心療内科医が、真理子という女性が実在するかどうかがとても重要だと言った言葉を思い出し、真理子に会おうと思います。連絡が付いたのかどうかもわからないまま、宿泊しているホテルの部屋の前で真理子の友人だと名乗る女性の声が聞こえます。女性は、真理子と一緒に部屋の前にいるので部屋から出るよう言います。どうすれば部屋から出ることができるのかわからない「わたし」に女性は「簡単ですよ。歩き出せばいいんです」と言います。ドアの外かどうかもわからない状態の中、真理子のように見える女性がいました。その後二人で公園を歩いている時「わたし」は、こんなに簡単にあの世界から出られるものだろうかと感じます。真理子が、何を考えているのかと聞くので「わたし」は、「ずっとわけのわからない空間にいてそこから抜け出せなかった」と答えます。真理子は、「私に会おうと思ったからですよ」と微笑みます。一歩を踏み出し歩き出そうという気持ちになって、やっと本来の自分を取り戻すことが出来たのだと思いました。
この小説は「現実には、意味がないのだ」という文章で終わります。
「わたし」は、長い苦悩の末、幻想の力を借りながら、自分のこれまでの過去を振り返ることによって、やっと現在の自分を受け入れられるようになり、現実を受け入れ、年月と共に培った経験を基に、小説家としての新たな一歩を踏み出したのだと思いました。
読み終えるまで、かなり集中力を必要とする小説でした。

今日が幸せな一日でありますように。