【小説】 落合 恵子「泣きかたをわすれていた」【感想・あらすじ】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
今日はマダラについて話そうと思います。マダラは姉に拾われた猫になります。拾われた当初は他にも兄弟がいました。炎天下の中、公園に捨てられカラスに襲われていたマダラたちを姉が連れて帰ってきました。そして知り合いに次々と貰われていく中で最後に残ったのがマダラでした。マダラが来た当初は怒って威嚇していたちまきですが、すぐに慣れて今では仲良し兄弟です(^^)
今日お話しするのは、落合恵子さんの「泣きかたをわすれていた」です。

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あらすじ

子どもの本の専門店「ひろば」を経営する冬子は、7年間に及ぶ壮絶な自宅介護の末母を看取ります。
母を見送ってから10年。愛する人、大切な友人たちを見送り、店も信頼出来る部下に譲り、やっと長い間封印していた涙を流すことができます。そして72歳になった今、冬子は自らの終わりを見据え、解放と自由を見つけ新たな一歩を踏み出そうとします。
介護のあり方や家族の看取り方、自分の人生の終わり方など、目を逸らしてはいけない問題を提起した一冊です。

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ひとり言

落合恵子さんの「泣きかたをわすれていた」を読みました。
72歳になった冬子のこれまでの人生の軌跡の物語です。
冬子の母は、22歳の時非嫡出子として冬子を生みます。30代で夫を亡くし4人の娘を育てた祖母は、長女の母のことを恥知らずと罵り、冬子に対しても可哀想な子と冷めた目で見ていました。
そうした環境で育った冬子は、自分の存在が母の幸せを奪ったのではないかと気に病みながら子供時代を過ごしていました。そして10代から50代にかけて冬子と母は適度な距離を取りながら母娘二人で生きて来ました。作中では、冬子の母は母というだけで、名前は出て来ません。未婚で冬子を産み、シングルマザーとして娘を育て生きてきた母としての存在を感じました。
その後、「あなたはあなたを生きて行きなさい」と言っていた母の記憶は次々と失われて行きます。子どもの本の専門店「ひろば」を営みながら、冬子の母の自宅での介護が始まります。排泄や入浴の世話、細やかな配慮の上作られた日々の食事、母を気遣った優しい語りかけなど、休む間も無く続く7年間に及ぶ一人での介護です。
壮絶な介護の中、冬子の戸惑い揺れる心にこれまで母と過ごした日々や母との関係が蘇ります。束の間、介護を忘れることの出来る時間ではなかったのではないでしょうか。
冬子は、自分が倒れる訳にはいかないと、自分を叱咤激励しながら介護を続けます。泣いている暇などないのです。自宅で介護するということは、相当な覚悟が必要なことだと思いました。
7年間に及ぶ出来る限りを尽くした自宅介護を経て、冬子は母を看取ります。母が幼い冬子に言った「本を読むのも幸せだけど、まだ読んでない本があるのは、もっと幸せ。だから、おかあさんは、本屋さんが大好き」という言葉が思い出され、冬子の絵本に対する愛の深さに母の影響を感じました。
その後も、冬子は愛する人や大切な友人を見送ります。
72歳になった冬子は、自分の死を意識して病院で検査を受け、経営する「ひろば」を信頼できる部下に譲ります。反原発を訴える冬子は、部下の夫が原発で働いていることを知り、部下に思いやりのある言葉を残します。自分を客観視して行動できる本当に優しくて強い女性だと思いました。
母を看取り、愛する人や大切な友人を見送り、経営する店を部下に譲り終わった時、冬子は「いつでも死ねる。それは、なにより大きな安堵だった。心残りもない。それは、大きな解放、自由だった」と思います。そして、これまで泣く暇もないほど一人で闘ってきた冬子は、長い間封印していた涙を流します。そしてその時、もうしばらく泣くことを決め、涙の感触を楽しみます。
冬子にやっと安らげる時が訪れたのだと思いました。自分の肩に責任がのしかかっている時、そのことの対処で精一杯で、人は涙を流して泣くことも、心の底から笑うこともできません。喜怒哀楽を形として表せる時は、まだ自分に気持ちに余裕があるのではないかと感じました。
冬子はこれまでの自分の人生を振り返って「人生は一冊の本である。若い頃長編と思えた人生という本は実際には、驚くほど短編だった」と思います。先を見るとゴールはなかなか見えて来ないけれど、振り返ってみると歩んで来た道は、想像していたよりずっと短いものなのかもしれないと思いました。そしてそれは、冬子が精一杯悔いのない人生を歩んできた結果ではないかと思いました。私は冬子のような生き方はなかなか出来そうもありませんが、その時その時に応じて、悔いのない選択をしたいと思いました。
物語は冬子の病院での検査結果を待っているところで終わっています。いろいろな重責から解放され、やっと自由になれた冬子にこれから幸せが訪れ、新たな人生が始まることを願わずにはいられません。
介護のあり方や家族の見送り方、自分の終末の向かい方など、自分の生き方を考える機会を与えられた一冊でした。

今日が幸せな一日でありますように。