【感想】渡辺 淳一「孤舟」【あらすじ付き】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
また暑い日が続いていますね。私は夏が苦手なので早く秋になってほしいです。
今日お話しするのは、渡辺淳一さんの「孤舟」です。

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あらすじ

定年後のバラ色の人生を信じていた威一郎を待っていたのは、家族との深い溝だった。娘は独立、妻は家を出てしまい、残ったものは犬のコウタロウだけだった。現代の夫婦像を見つめた異色の長篇。

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ひとり言

渡辺淳一さんの「孤舟」を読みました。
この物語は「団塊の世代」が定年を迎える時代を背景に書かれているので、定年延長や共働き家庭が増える等、働き方改革が進められている現在とは異なる状況も多いと思います。
大手広告代理店で執行役員まで努めた主人公の大谷威一郎は、関連会社の社長のポストを断り、六十歳で定年退職します。
妻は専業主婦、息子は家を出て会社の寮に住み、娘はアパレル会社に勤めています。
威一郎は、定年後は、読書や囲碁、ゴルフ、フランス語の勉強、そして妻との旅行など、「第二の人生」の夢を描いていました。けれども現実は、何もすることのない長い一日を持て余す日々でした。
企業戦士として、過酷な競争社会を生き抜いてきた人にとっては、それなりのプライドもあり、またそれが定年後の生活の足かせになっているのではないかと思いました。
生きがいを見失って侘しさを感じている威一郎にとって、妻から現役時代にはやったことのない、犬の散歩や風呂掃除を頼まれるのは苦痛だという気持ちは解らなくもありませんが、定年直後はまだしも、妻に対しての思いやりに欠ける威一郎の行動は、最後まで理解出来ませんでした。
威一郎の退職後数ヶ月で、専業主婦である妻は、心身のバランスを崩し「主人在宅ストレス症候群」を発症してしまいます。威一郎が、自分に問題があることを気づいていないことが大きな問題なのだと思いました。
企業戦士の夫に代わり家庭生活を守ってきた妻は、子供が自立してから、やっと自分の時間が持てるようになり、習い事を始めたり、自分のペースで生活できるようになります。
そうした中、夫が定年退職を迎え、一日中家にいて口うるさく、家庭の仕事も増えます。夫が気を使って料理を作っても、後始末など却って仕事が増えてしまいます。悪循環です。知らず知らずのうちにストレスが溜まっていったのです。
子供は自立し、家のローンも払い終わり、企業年金も入って老後の生活には困らなくても、人間にとって生きがいがあることが、いかに大切であるかを考えさせられました。
そうした両親の関係に嫌気がさした娘は、家を出ます。威一郎と喧嘩をした妻も後を追うように娘のところへ行ってしまいます。残されているのは、犬のコウタロウだけです。
お金の管理は妻任せだった威一郎は、家を出た妻から通帳を受け取り、自由になるお金を得て、寂しさのあまりデートクラブに入会します。そこである女性と知り合い、お金を払った交際が始まります。男性目線で読むと理解できる行動なのかもしれませんが、生きがいをそこに見い出す威一郎に、やっぱりという思いとともに、がっかりしました。
娘と喧嘩をした妻が家に帰ってきます。妻が娘に「夫の浮気を許せない」と言った時、娘が「勝手に家を出て、淋しい思いをさせたのだから、ある程度仕方がない」と言ったことが原因でした。二人の本音が対立した結果です。
妻が帰って来て再び通帳が取り上げられても、威一郎は女性と付き合おうとしますが、女性は結婚が決まったと言います。けれども、女性は結婚しても、都合がつけば今後も付き合ってもいいと言います。そして、威一郎は彼女を見送りながら、「今日から新しく生きていこう」と自分に言い聞かせる場面で、物語は終わります。
この物語は、定年退職した夫の目線で描かれているので、夫よりの描写になっているように感じました。
夫から見ると定年後の妻の態度が不満です。けれども妻から見ると、家庭での現役時代と変わらない夫の行動に不満があるし、子供から見ると、退職後の両親に、折り合いをつけて上手く過ごして欲しいという不満があります。そして定年のない自営業、老後の生活に経済的不安のある人には、また別の思いがあると思います。
このようにこの作品は、読者の性別、年齢、職業、老後の補償等によって、読後感が随分と違うように思います。
家族がそれぞれに対して、少しの思いやりを持って接するとまた違った展開になったのではないかと思いましたが、当事者になるとなかなか難しいことです。
退職後、会社のネームバリューのもとでしか通用しないプライドを捨てることが出来た人は、自由にその後の人生を楽しむことが出来るのではないかと思いました。そして、これからの高齢者社会を生き抜くためには、老後の生きがいを持つことの重要性を強く感じました。女性目線で読むと、わだかまりの残る作品でした。

今日が幸せな一日でありますように。