【小説】谷川直子「世界一ありふれた答え」【感想・あらすじ】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
新しい年になりましたね。今年もたくさん本を読み思ったことを「ひとり言」にしていきたいと思います。
今後ともオトメニアチャンネルをよろしくお願いします!
今日お話しするのは、谷川直子さんの「世界一ありふれた答え」です。

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あらすじ

市会議員を目指す夫のため献身的に尽くし、共に市長選を目指そうとしていた矢先、突然離婚を切り出された積木まゆこ。ピアノを弾く時、右手の指が動かなくなってしまう病に苦しむピアニストの雨宮トキオ。
うつ病を患って苦しんでいる二人は、通っているクリニックを通じて知り合い、ピアノを通して徐々に心を通わせていきます。
その後まゆこは深夜のコンビニで知り合ったDVに苦しむ若い親子と知り合ったことをきっかけに、女性を支援する活動に携わるようになります。トキオもまゆこの変化にきっかけを見い出し、プログで病をカミングアウトします。二人の再生を描いた心に響く物語です。

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ひとり言

谷川直子さんの「世界一ありふれた答え」を読みました。
四十歳の積木まゆこは15年前、大学の先輩の山田まさおと結婚しました。まさおは当時塾講師をしていましたが、まゆこの勧めもあり、市議会議員に立候補し当選します。
まゆこは、まさおの当選のために勤めていた会社を辞め、献身的に尽くしました。
けれども、議員として基礎を固め市長選にも立候補しようかという時、まゆこはまさおから事務所に出入りしていた女性との間に子供が出来たと、突然離婚を切り出されます。
議員の妻としての自分を夫によって全否定されたことで、まゆこはうつ病になってしまい、心療クリニックで治療を受けます。
そうしたある日、まゆこは同じクリニックに通う三十歳の雨宮トキオと知り合います。トキオは数々のピアノコンクールで優勝した有名なピアニストですが、ジストニアという病気に罹り、ピアノを弾こうとすると右手の指が動かなくなり、現在は病気のことを隠して、テレビでクラシック音楽の解説をしたり、ラジオのパーソナリティをしています。
夫の妻として政界活動に生き甲斐を感じ、献身的にサポートし続けたまゆこと、ピアニストとして音楽を愛し、その世界だけで生きてきたトキオ。生き甲斐を失った二人は、お互いに求め合うものがあり、ピアノを通して交流を深めていきます。
少しだけピアノの経験のあるまゆこにトキオが指導したのは、ドビュッシーの「月の光」でした。この曲はかつて「天使の足音」と称賛された曲でした。トキオにとって、想い出の曲です。二人の交流は順調に見えていましたが、トキオは死を仄めかすようになり、まゆこも巻き込まれそうになっていきます。
そうしたある日、まゆこは深夜のコンビニで若い親子のセリナとカノンと出会います。セリナは、同棲する男性のDVから逃げてキャバクラで働いて、五歳のカノンを一人で育てていました。
まゆこは、DVの男性に居場所を知られた二人を自宅で一時的に保護します。セリナは酷い目に遭いながらも、明るさを失わず前向きに生きている真のしっかりした強い女性です。カノンの存在が母としての彼女を強くしていると感じました。
まゆこは、市会議員の妻だった頃の伝手で、セリナがDVの被害者を受け入れるシェルターに入れる手配をします。かつてのまゆこの生き生きした生活が戻ってきたようです。
まゆこはセリナの勧めで、セリナが働いているキャバクラの会計係として働き始めます。これまでカウンセラーの治療を受けていたまゆこが、店で働いている女性から悩み事を相談されるようになります。まゆこにとって、今まで殻に閉じ籠っていた自分から抜け出す一つのきっかけを掴むことができたのではないかと思いました。
自分と向き合えるようになったまゆこは、死ぬことで現実から逃げようとするトキオの前でトキオのためていた睡眠薬を全てベランダから投げ棄てます。そして「私はもう死にたいとは思っていない。死にたいのなら、ひとりで死になさい」と、トキオの前から去っていきます。まゆこは自分の中に答えを見つけることが出来たのだと思いました。
それからしばらくして、トキオのブログが更新されます。ブログには、音楽活動の無期限休止が公式に発表され、ジストニアに罹り右手でピアノが弾けないこと、作曲家として再起しようと思っていることなどが赤裸々に語られていました。そして最後に,病に苦しんでいる時、自分を支えてくれたある人への感謝が綴られていました。ブログを読んだまゆこは涙を流し、言葉では言い表わせない程の充足感を得ます。
孤独だった二人は、辛く苦しい日々を乗り越えて、自分にとっての答えを見つけることが出来ました。自分の世界が全てだと思い、病に苦しんでいた二人が、きっかけを掴むことによって自分を客観視することが出来るようになり、自分にとっての新たな世界に気づきます。
人間には色々な欲求があり、それを上手くコントロール出来なくなると精神が不安定になってしまいます。立ち直るための答えは自分の中にあるけれど、悩み苦しんでいる時は自分と向き合うことが怖くて目を逸らしてしまいます。殻から抜け出すためには、自分を客観視する何らかのきっかけが必要で、その為には人間関係が重要な要素になっていると感じました。
読後、辛く苦しい時、如何に客観的に自分と向き合えるかが、その状態から抜け出す答えを導き出すための鍵になるのだと強く思いました。温かな余韻の残る物語でした。

今日が幸せな一日でありますように。