ご挨拶
こんにちは、こんばんは、ちまです。
花粉症の人にはつらい季節になってきましたね。私は鼻をかみすぎて鼻の下がヒリヒリします。
今日お話しするのは、藤岡陽子さんの「きのうのオレンジ」です。
あらすじ
東京でファミリーレストランの店長として、多忙な日々を送っている33歳の笹本遼賀は、大学病院で胃がんの宣告を受けます。「なぜ、自分が・・」と不安と恐怖で動揺している時、自宅に、郷里の岡山にいる双子の弟の恭平から荷物が届きます。入っていたのは、十五歳の頃、亡き父と恭平と三人で登った冬山で、恭平と遭難した時に履いていたオレンジ色の登山靴でした。その靴を見た遼賀は、「あの日、自分は生きるために吹雪の中を進んで行った。逃げ出したいなんて、一度も思わなかった」ことを思い出し、病と闘う覚悟を決めます。愛に溢れる感動の物語です。
ひとり言
藤岡陽子さんの「きのうのオレンジ」を読みました。
33歳の笹本遼賀は、都内でファミリーレストランの店長として、多忙ながらも従業員にも慕われ、充実した日々を送っていました。
そんなある日、遼賀は体の不調を覚え大学病院で検査を受けたところ、胃癌であることを宣告されます。遼賀は、この病院で看護師をしている、高校時代の同級生の矢田泉と偶然再会します。彼女はその後の遼賀にとって、病と闘うために、大きな支えとなる大切な人になります。
岡山にいる家族に胃癌になったことを告げた後、不摂生な生活を送っていない自分が、なぜこの若さでがんの宣告をされなければいけないのか、と病への恐怖と不安で動揺しながら自宅で入院の準備をしている時、弟の恭平から、オレンジ色の登山靴が届きます。
その靴は、15歳の時、亡き父と恭平と三人で登った冬山で、遼賀と恭平が遭難した時に履いていた靴でした。その靴を見た遼賀は、その時、初めて「死」を意識したことを思い出します。そして「死」を意識して遺書を書いた後、二人で生きて帰るために必死に前に進んでいた自分を思い出し、現実を受け入れ、癌と闘う覚悟を決めます。遼賀のオレンジ色の登山靴は、遭難した時、ずぶ濡れになった恭平の靴と交換した靴でした。靴を交換したため、遼賀の足は凍傷になってしまいます。命がけで自分を守り助けてくれた遼賀に、この靴を見て、癌に負けないで生きて欲しいという恭平の強い願いを感じました。恭平は、ある事情から、遼賀と双子の兄弟として育っていますが、今の両親の子供ではありません。けれども二人は幼い頃から、双子の兄弟として違和感なく本当の兄弟のように育っていました。
いきなり命に関わる想定外の事実を告げられた時の衝撃は、計り知れません。オレンジ色の登山靴が、遼賀に病と闘う決意をする勇気を与えました。その後も、辛い闘病生活の中、冬山で遭難しかけた時のことを回想し、遼賀は病と闘い続けます。
遼賀の辛い過酷な闘病生活は、家族と彼の周りの人の優しい思いやりに支えられてます。母・燈子と恭平の献身的な心強い支え、そしてあれほど家を離れることを嫌がっていた祖母も、施設に入ろうとします。泉も看護師として懸命に遼賀を支え、店長をしていた時のアルバイトの高那裕也も、何度も面接に落ちた自分を雇ってくれた遼賀に感謝して慕い、一生懸命に支えようとします。
母の燈子や泉の言葉から、遼賀の目立つ存在ではないけれど、几帳面で真面目で誠実で人に気遣いのできる優しい人柄が感じ取れます。そんな遼賀だからこそ、家族や周りの人が、何としてでも遼賀を守り支えたいと思うのだと思いました。
遼賀の癌は、非情にも進行していきます。普通に送っていた日常が、死に関わる突然の宣告によって一変してしまう。その現実をどう受け入れ、どう対処していくのか。自分の生き方を問われているように感じながら、読み進めました。
遼賀の辛く過酷な闘病生活が描写される中、遼賀と周り人の、お互いを思いやる優しい気持ちに救われました。遼賀は、体力の限界を感じながらも、自分の最後の願いとして、恭平、裕也、そして泉に支えて貰いながら、15歳の時遭難しかけた山に再び登ります。
その山で遼賀は、「間違いなく自分は幸せだった」と思います。そしてみんなに、「ありがとう」と、感謝の気持ちを伝えたいと思います。オレンジ色の登山靴に励まされ、生きるために精一杯の努力をして、もう一度思い出の山に登ることが出来て本当に良かったと思いました。
山から帰った翌月、遼賀は亡くなります。まだまだやりたい事はたくさんあったと思いますが、残された時間を希望を失わず、精一杯生きた遼賀の存在は、周りの人にも大きな影響を与えました。遼賀は、遺されたそれぞれの人の心の中に大切な人として、いつまでも存在し続けると思いました。
悲しいけれど愛が溢れる物語で、読み終えた後、思いやりのある優しい気持ちを失うことなく、持ち続けて生きて行きたいと思いました。
今日が幸せな一日でありますように。