【小説】辻 仁成「海峡の光」【感想・あらすじ】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
私は毎朝プロテインを飲むのが日課です。皆さんは朝は必ずコレ!というものはありますか?
今日お話しするのは、辻 仁成さんの「海峡の光」です。

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あらすじ

◆あらすじ
斉藤は、廃航間近の青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所の看守をしています。
その彼の前に、小学生の時、優等生の仮面の下で同級生を扇動し、斉藤に陰湿な虐めをしていた花井が、傷害罪の受刑者として現れます。
そして今、二人は、船舶訓練実習の監視者と被監視者として海にでます。海峡の光に、二人の闇が照らされます。
第116回下半期芥川賞受賞作です。

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ひとり言

辻仁成さんの「海峡の光」を読みました。
主人公の斉藤が小学五年生の同じクラスに、成績優秀で品行方正なため、皆から一目置かれる存在の花井修がいました。六年生になったある日、斉藤は、花井が目の前で転んだ老婆を無視し、小犬を蹴飛ばした場面を目撃します。斉藤に目撃されたと気付いた花井の、斉藤に対する酷い苛めが、翌日から始まります。そして花井が転校するまでの数ヶ月、花井に扇動されたクラスメートからの残忍な苛めは続きました。こうした過去は、斉藤の心に、拭い去れない闇をもたらします。
この物語はそれから18年後から始まり、斉藤と花井を軸に、過去と現在を去来しながら進んでいきます。斉藤は、青函トンネルの開通により廃航になることを見越して、青函連絡船の船員から函館少年刑務所の刑務官へ転職し、現在は、船舶訓練教室の副担当官です。その斉藤の前に、傷害事件の受刑者として、花井が現れます。
花井が犯行に至った原因は、よくわかっていません。ここにも、花井の歪んだ心理が窺い知れます。
斉藤は、自分が過去に受けた残忍な虐めから、花井を観察し、彼の本性を探ろうとします。斉藤の拭い去ることの出来ない心の闇が、彼をそうした行動に導いたのだと思いました。
花井は昔と変わらず、模範的で、周りからも好印象を持たれています。そういう花井を見るにつけ、斉藤は苛立ちます。過去の彼を知っている斉藤にとって、本性を現さない花井は、仮面を被った偽物の花井としか見えなかったためではないかと思いました。18年経っても、花井は歪んだ心の持ち主に違いないという、斉藤の思い込みなのでしょうか。
花井は少しずつ本性を現し、彼の扇動により、船舶職員課の中で、虐げる者と虐げられる者が生まれてきます。その後、周りの者が納得いかないような行動を花井がとり、斉藤は、そうした花井に振り回される自分に嫌気がさしてきます。そうした日常の中、斉藤は、今自分が彼より優位な立場にいることに気づき、それを花井に見せつけることが、かつての報復になるのではないかと思います。支配する者と支配される者、刑務所内外に関わらず、私たちの身近にも存在しています。そしてそれは、少年時代とは逆の花井と斉藤の関係でした。
花井は、模範的で、仮釈放が認められますが、仮釈放の日も間近に迫ったある日、暴動を起こし保護房と呼ばれる独房に入れられ、仮釈放も見送られます。その翌年、昭和天皇の恩赦により仮出獄が認められることになり、花井は晴れ渡る好天の中、事件当時着ていたイタリア製のスーツを着て出所します。
斉藤はそうした花井を見送っている時、小学生の花井を見送った時の記憶が蘇り、思わず、自分がその時、花井から言われたのと同じ言葉の「お前はお前らしさを見つけて、強くならなければ駄目だ」と口走ります。それを聞いた花井は、斉藤に殴りかかります。狭まっていく意識の中、斉藤は花井の「分からんのか、俺はずっとここにいたいのだ」という声を聞いたような気がします。
花井は、社会から隔離された塀の中でのみ、自由でいられるのかと思いました。花井の心理も行動の理由も明かされていませんが、両親に対する彼の反応から、何か家族の関係に彼の歪んだ行動の原点があるのではないかと感じました。それとも、全く違う原因があるのでしょうか。
花井の仮出獄は、その場で取り消されます。花井は、再び自由を手に入れたのです。花井は
社会に出たとしても、刑務所を自分の生きる場所として、何度でも舞い戻って来るような気がします。死刑になりたいと自分の身勝手さだけで、何も関係のない多くの人を死傷させた、無差別殺人事件を思い出します。許すことの出来ない犯罪です。花井が舞い戻って来るためには、また新たな犯罪が発生します。読みながら、歪んだ心を持った人間の底知れぬ怖さを感じました。
斉藤と花井の心の闇は、一見すると落ち着いたようですが、実は何も解決されないまま、物語は終わります。斉藤が少年時代に受けた心の傷と闇、そして花井の歪んだ心は、生涯消え去ることはないのかと、人間の複雑な心理を空恐ろしく感じました。海峡の光は二人の心の闇を照らし続けているのでしょうか。
テーマとそれを表現する詩情豊かな描写に、作者の独特の感性を感じた作品でした。

今日が幸せな一日でありますように。