ご挨拶
こんにちは、こんばんは、ちまです。
先日は久しぶりに丸1日雨が降っていました。
気温もぐっと下がって春なのに肌寒い1日でした。
今日お話しするのは、森絵都さんの「ジェネレーションX」です。
あらすじ
主人公の野田健一は、小さな出版社で働いている中堅社員。
その出版社が発行する通販情報誌にクレームがついて、商品の販売元の社員とともにクレイマーの自宅に直接謝罪に行くことになる。
初対面の二十代の社員・石津と謝罪に行く往復の中で、健一は石津の意外な一面をしり、自分も若かった頃の夢を思い出して・・・。
ひとり言
森絵都さんの「ジェネレーションX」を読みました。
「風に舞いあがるビニールシート」の中の六編の短編小説の一つです。
読み終えた後、何だかとても幸せな気持ちになりました。
主人公の野田健一は、小さな出版社に勤める三十代後半の中堅社員です。
あと二年で定年退職になる編集長の叱責にも、「あと二年、あと二年」と自分に言い聞かせながら、何とか耐えています。
そうした中、彼が担当している通販情報誌に掲載していた商品に、誇大広告に該当するものがあり、購入者の一人からクレームが入ります。
謝罪のために一緒に行く商品の販売元会社の担当者は、先輩の代理で来た二十代の石津直己です。
健一もかつては「新人類」と呼ばれた世代ですが、若い石津に会った時、健一は何となく彼に「ジェネレーション・ギャップ」を感じます。
二人は営業用のライトバンに乗り、宇都宮まで2時間近くかけてクレーム元のお客さんの自宅に向かいます。首都高に乗って間もなくすると、石津の携帯電話の着信音が鳴ります。石津の私用の電話でした。
最初は早々に切り上げ「すみません」と謝っていた石津でしたが、「気にすることはない」と健一が返すと、色々な所へ電話をかけまくります。そして、次から次へと違う名前の人が登場してきます。
健一は、何度か注意しようかと思いますが、「ま、いいか。今日一日の辛抱だし」と、石津の私用電話を容認し、聞くともなく石津の会話を聞いていました。
電話をし終えた石津は、今度はラジオをつけて、明日の天気を気にします。
明日の天気が快晴だと確認すると、また電話です。
石津の電話での会話を聞いてるうちに、健一は、段々石津の交友関係に詳しくなって行きます。
健一は、石津と話すうちに、石津の高校時代の同期の野球部メンバーが、卒業時に「十年後に、その頃、自分たちがどんなに変わっていても、どこで何をしていても、必ず集まってまたみんなで草野球をしよう」と約束をしたことを知ります。
明日がその日だったのです。石津は、その約束のために奮闘していたのです。
石津がなかなか思い通りに行かないことに骨を折っている様子を見て、健一は次第に明日の約束の成り行きが気になりだします。相手のことに興味を持ち始めるのは、少しずつ二人の距離が近づいて行ったのではないかと思いました。
宇都宮のクレーム元の自宅に着いてからの、お客さんに対する石津の機転の利いた対応に「見事なお手並みだったな」と健一は若い石津を見直すようになります。
無事クレーム処理が終わり帰る途中、石津の携帯電話に、二件のメールが入っていました。
石津は言います。「二件、入っていました。朗報と悲報が」朗報は野球関係で、悲報は社長からで、必ず明日までに木更津までクレーム対応に行けというものでした。
石津は仕事を取るか、十年前の野球部員との約束を守ることを取るのかの決断を迫られ、「会社、辞めちゃおうかな」とつぶやきます。
十年前の約束をみんなで何とか果たそうと、奮闘してきた石津の熱い思いから出た言葉だと思いました。
そして、しばらくして石津は言います。「なんだかんだ言っても僕は明日、木更津のお客さんちでぺこぺこ頭を下げてるんだろうな」と。そうすると、今度は健一が言います。「ときどき、恐ろしくバカなことをやりたくなる。これから君を木更津までつれていく」
健一の、とっさの判断です。二人の「ジェネレーション・ギャップ」が埋められました。
木更津へ向かう車中、健一が言います。「もし明日、投手が参加出来なかった場合、俺に投げさせてもらえないかな」
健一は、高校の時野球部で、夏の甲子園で準優勝していました。その時のポジションは、レフトでしたが、健一はピッチャーに憧れて、ひそかに投球練習を積んでいたのです。
そんな話しをしていた最中、石津の携帯電話の着信音が鳴ります。携帯電話を話し終えた石津が言います。「朗報と悲報があります」「今度はなに?」と、思わず突っ込みたくなりました。
悲報は、ピッチャーが参加できるようになったことで、朗報はメンバーの一人が
急性虫垂炎で緊急入院したために、ポジションに空きが出来たことでした。悲報と朗報が健一と石津では逆でした。
石津が「明日参加してもらえないでしょうか」と尋ねると、健一は言います。「もちろん行かせてもらうよ。で、ポジションは?」石津が言います。「レフトです」
空いたポジションがレフトのオチには、予想はしていたものの、吹き出してしまいました。
明日、健一が張り切って草野球に参加する姿が目に浮かびます。
健一が石津の車内での私用電話を禁止していたら、その後の二人のこれまでのような会話は生まれず、二人のジェネレーション・ギャップは埋まらなかったと思います。
就業中の私用電話は良いとは思いませんが、ジェネレーション・ギャップを埋めるためには、最初から相手のことを否定するのではなく、お互いに相手のことを受け入れる姿勢を持ちながら、その上で会話することが必要だと感じました。
そして、二人を見ていて、私も「自分の人生にとって本当に大切なものは何か」ということを見失わないように生きて行けたら良いなと思いました。
読み始めは、上司に不満を持ったり、就業中に私用電話をかけたりと、なんだか冴えない二人だなと思っていました。けれども、読み終えた後は、自分にとって大切なものを見失うことなく突き進んで行く二人が、きらきらと輝いて見えて、本当にかっこ良くて素敵だなと思いました。
今日が幸せな一日でありますように。