ご挨拶
こんにちは、こんばんは、ちまです。
私は最近毎日1時間の散歩をするようにしています。歩くと気分転換にもなって毎日楽しいです!
今日お話しするのは、宮下奈都さんの「ふたつのしるし」です。
あらすじ
美しい顔を眼鏡で隠し、田舎町で息をひそめるように生きる優等生の遥名。早くに母を亡くし周囲に貶されてばかりの落ちこぼれの温之。遠く離れた場所で所在なく日々を過ごしてきた二人の〝ハル〟が、あの3月11日、東京で出会った――。何度もすれ違った二人を結びつけた「しるし」とは?
ひとり言
宮下奈都(みやした なつ)さんの「ふたつのしるし」を読みました。
この物語は、柏木温之が小学校一年生になった1991年5月から始まります。そして、温之の人生と、後に深い関わり合いを持つことになる大野遥名の人生が、交互に描かれています。
小学校時代の温之は、発達障害を感じさせるような行動を取り周囲に馴染むことが出来ず、勉強も運動も好きではなく、一人で蟻の行列や地図を見るのが大好きな男の子でした。けれども、彼自身の「型にはまらない」考えはしっかりと持っています。同級生の浅野健太だけは、温之のことを理解していました。温之の大切で貴重な友達です。
一方、荒れていると評判の公立中学校に入学した遥名は、卒業するまではと、綺麗な顔や勉強が出来ることを隠し、作り笑いをし、とにかく目立たない様に、自分の本当の気持ちは隠して「型にはまった」生き方をしています。けれども遥名もまた、自分の考えはしっかりと持っています。
温之は、中学生になります。他の同級生に比べると、少し成長が遅いようです。そのためにイジメに遭う温之を、健太は体を張って守ります。その時温之は、健太のことを一生大事にするべき友達だと思います。そして健太は、「おまえはいざというときのための人間なんだ」と温之に言います。この言葉は、後の温之の行動に大きな影響を与えます。
遥名は、大学生になり同級生の美香里と友達になります。大学では、志を持った人たちと切磋琢磨して勉強をするものだと思っていた遥名と違い、美香里は学生生活を楽しんでいます。そんな友達を見ても、遥名は「いざという時はこれから来る。その時に全力で迎え撃てるように準備をしていこう」という思いを持って大学時代を過ごします。
温之は高校生になりますが、突然母親を交通事故で無くしたこともあって、中退して家を出て、放浪するようになってしまいます。
遥名は大学卒業後、そのまま東京で就職し、三年目を迎えます。遥名は、同じ会社に勤める既婚の男性に恋愛感情を持ち、付き合うようになります。
温之は、25歳になり、電気の配線工をしています。子供の頃から、地図が好きだった温之は、図面に才能を発揮します。温之にまさに適した職業で、温之のことをよく理解してくれる社長の元で働くことの出来る仕事に就くことが出来て本当に良かったと思いました。
温之は、仕事先で遥名を見かけます。声を交わすこともない出会いでしたが、この時から温之にとって遥名は、「しるし」のある、特別な人になります。
遥名は辛い社内恋愛を経て、32歳になります。遥名を支えてくれたのは、美香里でした。かけがえのない友達です。
2011年3月、東日本大震災が発生します。会社から、徒歩で家に帰ろうとする遥名の前に、「遥名さんを迎えに来ました。自転車で送ります」と、突然温之が現れます。遥名にとっては、見知らぬ青年です。温之は、「しるし」があるから遥名を見つけられたと言います。普段なら、不審者とも取られる行為ですが、大震災という非日常の中、遥名もまた、温之の中に「しるし」を見つけました。
温之はまだ他にも困っている人がいるからと、連絡先も告げず、去って行きます。けれども遥名は、温之が「しるし」を頼りに、またきっと帰ってきてくれると信じます。
その後、遥名と温之は結婚して、娘が生まれ「しるし」と名付けられます。しるしは、十歳になりました。
この小説は、温之と遥名の、約30年に及ぶ物語です。年齢も出身も生い立ちも違うけれど、社会での生きづらさを感じていた二人が、お互いの「しるし」を見つけて、やっと巡り会えました。温之の強引とも思える一途な想いには驚かされましたが、その想いに遥名が応えてくれて、本当に良かったと思いました。
遥名は言います。「人生には意外と勘が大事です。本当に大事なものって自分で見つけるしかないの。そして勘は、考えたり体験したりしたことの積み重ねの先にあるの」と。
二人にとっては、出逢うまでの人生が、「しるし」を見つけるために必要な時間だったのだと思いました。そして、温之にとっての健太や会社の社長のように、かけがえのない人との出会いにはお互いに見える「しるし」があるのではないかと思いました。
温かいものがいつまでも心に残る物語でした。
今日が幸せな一日でありますように。