【小説】近藤 史恵「昨日の海は」【あらすじ含む感想】(再読)

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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
今日お話しするのは、近藤 史恵さんの「昨日の海は」です。
近藤史恵さんは1969年に生まれ、1993年に「凍える島」で第4回鮎川哲也賞を受賞し作家デビューされます。
歌舞伎の研究をしていた経験もあり、歌舞伎を題材にした作品も多くあります。
「サクリファイス」で第10回大藪春彦賞を受賞され、ミステリー作家としても人気があります。
奥深い人間関係の心理を丁寧で巧みに描写された物語に引き込まれます。
本作品も成長する少年の姿が繊細に描かれたミステリーが含まれた青春小説です。

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ひとり言

近藤史恵さんの「昨日の海は」を読みました。
四国の海辺の小さな町で両親と暮らす高校一年生の光介の家に、母の姉・芹と娘の双葉が東京から引っ越しをして、一緒に暮らすことになったことから物語は始まります。
光介の母・夢は、カメラマンであった祖父とそのモデルを務めていた祖母のことを語りたがりませんでしたが、光介が中学生になった時、二人は海で心中したことを教えました。
遺影でしか祖父母の存在を知らない光介は、その時は、その事に特に興味を持つこともなく日々を過ごしていました。
けれども芹から、祖父母の死は無理心中で、これから前を向いて生きていくためにも真相を知りたいという決意を聞かされた光介は、自分のルーツを知るためにも自分も真実を知りたいと思い、叔母の芹と共に真相を突き止めようと行動を起こします。
写真館を営みながら、プロの写真家でもあった祖父・庸平とそのモデルを務めていた祖母・華子は、何が原因で、そしてどちらが無理心中を図ろうとしたのか。
いろいろな情報を元に調べるうち、真実が明らかになっていきます。
芸術のためには妻や娘の裸体を発表することを躊躇しない祖父に対して、祖母は命をかけて娘達を守ろうとしました。両親が居なくなってしまう娘達を残してまで取った祖母の行動には、何か他のやり方はなかったのかと思いましたが、母親としての誇りと強い愛情を感じました。
真相が明らかになった後、芹は妹・夢を守り、夢の息子である光介の気持ちを気遣う行動を取ります。両親の心中によって若くして大変な苦労をした、芯の通った気丈で温かな素敵な女性です。
そして、そうした芹の思いに気付いた光介は、「嘘にはまわりの人を傷つけず守ろうとする愛から生まれる嘘もあって、全てを明らかにすることが正しいやり方ではない。知らなかったことだってできるのだ」と、芹の優しさに応えようと知らなかったふりをします。光介が人のことを思いやることの出来る大人へと、少しずつ成長しているのだと思いました。
そしてその他にも、以前学校の授業で世界史の教師から聞いて、なぜかずっと心に残っていた「歴史というのは、単に過去に起きた出来事というだけではないのです。それは人が人であるために必要なものなのです」という、その時にはよくわからなかったことが理解できるようになったり、「今自分が平穏で気楽な世界にいられるのは、周りの人のおかげと、ほんの少しの運の良さによるものなのだ」ということに気付くことができるようになったりする描写で、光介が少しずつ大人に近づき成長していく過程がよくわかります。
祖父母の無理心中の真相を突き止めようとするという重い内容の中で、芹の娘である8歳の双葉の存在にホッとさせられる場面が出てきます。光介もこうした双葉の存在に癒されていたのだと思いました。
私は16歳の光介が、祖父母の閉ざされた過去の真実を知り、それを自分の歴史として受け止める柔軟性に驚きました。
10代の若さは、何かのきっかけで少年を一気に大人へと成長させるのです。
若さの力強さを感じた一冊でした。

今日が幸せな一日でありますように