【感想】有川 浩「ストーリー・セラー」【あらすじ付き】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
雨の日が続きましたね。私がいま録音している日は久々に晴れて洗濯物が外に干せました。
今日お話しするのは、有川浩さんの「ストーリー・セラー」です。

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あらすじ

妻の病名は、致死性脳劣化症候群。複雑な思考をすればするほど脳が劣化し、やがて死に至る不治の病。生きたければ、作家という仕事を辞めるしかない。医師に宣告された夫は妻に言った。「どんなひどいことになっても俺がいる。だから家に帰ろう」。妻は小説を書かない人生を選べるのか。極限に追い詰められた夫婦を描く、心震えるストーリー。

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ひとり言

有川浩さんの「ストーリー・セラー」を読みました。
この物語は、Side:AとSide:Bの二部構成になっています。二編とも、小説家の妻と妻を献身的に支える夫の物語です。そして二編とも、死を宣告されたパートナーとの夫婦の向き合い方が優しく感動的に描かれています。
Side:Aでは、複雑な思考をすればするほど脳が劣化し、やがて死に至る「致死性脳劣化症候群」という不治の病に冒された妻と、その妻を支える夫の姿が描かれています。
小説を読むのは好きだけれど書くことは出来ない彼は、会社の同僚である彼女の小説を書く才能に気づき、彼女に小説家になることを勧めます。その後二人は結婚し、妻は専業小説家になります。そうした中、妻の病気が発覚します。小説家にとって、思考を辞めるということは、小説が書けなくなるということです。二人にとっては、辛く苦しい日々の始まりでした。妻に小説家になることを勧めた彼は、自分を責め悔やみます。
彼女は葛藤の末、自分と自分の作品を心から愛し、支え続けてくれる夫のために、書くことを選択します。執筆の緊張を緩和する薬や鎮静剤、睡眠導入剤を取りながら、彼女は小説を書き続けました。そして、「ごめんね これだけ仕上げたかったけどもう無理みたい あなたがすき いままでありがとう ごめんね さようなら 元気で 幸せになってね (絶筆)」との書き置きを残し、彼女は旅立ちます。
それからしばらくして彼は、「最後まで支えてくれてありがとう。私を幸せにしてくれてありがとう。それでは。あなただけの作家より」と書かれた彼女の遺書を見つけます。そして、彼は「さようなら」と書けなかった彼女を心から愛おしく思います。
最後まで、お互いに愛し合い支え合う、悲しいけれど本当に素敵な夫婦の物語です。
Side:Bは、単行本化の際にSide:Aに付け加えられたということです。感動的なSide:Aの余韻が残る中、続けて読むと少し混乱しました。
Side:Bは、Side:Aを書いた小説家の彼女が、今度は夫が亡くなる小説を書くという物語です。死の間際までお互いに支え合う夫婦関係は、Side:Aと同じくらい素敵で感動的です。
彼女は会社に勤めながら、小説家として本も出版しています。同僚の彼は、彼女の小説のマニア的なファンで、会社の屋上で読みかけの小説を読んでいる時、彼女と会い、その小説を書いたのは彼女であることを知ります。その時から二人の付き合いが始まります。
彼女は会社を辞め、専業の小説家になり、その後二人は結婚します。二人の幸せな日々が続く中、彼がすい臓がんに罹っていることがわかります。余命は、数ヶ月なのか数年なのかわかりません。彼女は、夫が亡くなる小説を書いている自分にバチが当たったのだと自分を責めます。
その後数年間、二人はお互いを支え合いながら幸せな日々を過ごしますが、やがて彼は病状が悪化し、入院することになります。彼は彼女に「君を甘やかすのが人生の目標」「もし俺が死んだら、書いてくれよ。俺が死んだことを君がどう書くか知りたい」と言います。彼は死期が迫っていても、変わらぬ大きな愛で彼女を支え見守っています。
この作品は、全作を通して、登場人物に名前が付けられていません。作者が読者に対して、あなたなりの人物像を想像して読んで下さいというメッセージなのかなと思いました。
私は、Side:Aを読み終わった後の余韻があまりに大き過ぎて、続けてSide:Bを読むと、冒頭から戸惑ってしまいました。正直、何てことだろうと思いました。あれほど心を打たれたSide:AはSide:Bの小説家によって書かれた小説だったのです。私にとってSide:Aは、あまりに引き込まれる物語だったので、何か受け入れられない思いでSide:Bを読み終えました。作者にとって、読者のこういった反応は、想定内のことだったと思います。小説家は、読書の反応を楽しみながら、作品を仕上げているのではないかと思いました。
そして、最後の数ページで、また読者の意表を突くどんでん返しがありました。私は、読む側の人間なので、作者のストーリー・セラーとしての想像力と構成には驚かされました。
もう一度先入観を持たずSide:Aを読んで、あの余韻に浸りたいと思う一冊でした。

今日が幸せな一日でありますように。