【小説】乗代 雄介「それは誠」【感想・あらすじ】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
突然ですが、我が家にはたびたび現れる小さな虫がいます。
その虫はどこから入ってくるのか、気が付くと台所や洗面所、至る所に現れます。
調べるとジンサンシバンムシという虫だと分かり、食品の袋に穴をあけ、そこに卵を産み繁殖するそうです。
先日、出所を発見し駆除しましたが、ビニールや紙の袋の食品は危険だと書いてあったので保存方法を変えなければいけないなと思っています。
皆様もご注意ください。
今日お話しするのは、乗代 雄介さんの「それは誠」です。

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あらすじ

高校2年生の佐田誠が、東京への修学旅行の思い出をパソコンに入力する形で語り手となって物語は進みます。
誠は複雑な家庭環境で育ち学校も休みがちで、欠席時に決まった男子4人と女子3人の班員で修学旅行へ行くことになります。
誠は、2日目の自由行動でおじさんに会いに一人で日野に行くと言います。最初は戸惑う6人でしたが、男子3人が誠に同行し、女子3人は別行動を取りますが辻褄合わせに協力して、誠のために先生を欺く大芝居を打ちます。
寄せ集めの班のメンバーの友情が徐々 に芽生えて行く一日が見事に描かれた、爽やかで感動の青春ストーリーです。芥川賞候補作です。

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ひとり言

乗代 雄介さんの「それは誠」を読みました。
物語の語り手は、高校2年生の佐田誠です。生まれてすぐ両親は離婚し、母も三歳で亡くなり、祖父母と暮らしています。
誠は東京への修学旅行を終えた翌日、旅行の思い出を書き留めておこうとパソコンに向かいます。誠は、旅行で同じ班の仲間達とちょっとした綱渡りの冒険をしました。
学校も休みがちの誠が学校を休んだ日に決まった旅行の同じ班には、しっかり者の班長の井上奈緒をはじめ、特待生の蔵並研吾、吃音のある松帆一郎など誠の他、男子三人、女子三人がいました。
修学旅行二日目の全日自由行動の日のスケジュールを決める話し合いで、誠は亡くなった母が好きだった「うらわ美術館」を提案し、自分はおじさんに会うため一人で日野に行くと言います。
集団行動を義務付けられている自由行動で、単独行動をするのを嫌がる者もいる中、松は誠について行きたいと言います。
そうした中、旅行に行った一日目の夜、高村先生が宮澤賢治の『イギリス海岸』を取り上げ、「川で溺れてる時に、一緒に溺れてやろうって人と、助けてやろうって人がいたらきみならどちらに来てほしい?」と聞かれた誠は「二人ともそこにいたら、溺れている人はきっと助かる」と答えます。 この言葉を聞いた蔵並は、「松はお前と一緒に溺れてやろうと思っている。それなら僕は・・」と心を動かされます。
そして結局三人の男子は、おじさんに会いに日野に行く誠と行動を共にします。男子達の知恵を絞って捻り出したおじさんに会うための時間や、別行動の三人の女子の手助けもあり、誠は何とかおじさんに会うことが出来ます。
独身のおじさんはかつて複雑な家庭環境で両親のいなくなった3歳の誠を引き取ろうとしていましたが、吃音を理由に反対され、誠は祖父母に引取られました。誠が松のことを気にかけていた一因は、吃音のあるおじさんの存在が影響していたのだと思いました。
おじさんには、今付き合っている女性がいることもわかり、誠はおじさんに貰ったパソコンを今も使っているなど伝えたかったことを話し終えた後、仲間を残して立ち去ります。
その後、仲間と落ち合った誠はおじさんの伝言を聞きます。「それは誠。強い男。来てくれてありがとう」というものでした。
「それは誠」というのは、かつておじさんが誠のためによく歌ってくれた歌の歌詞の一節で、おじさんは歌う時には吃音がでませんでした。タイトルと照らし合わせて、誠とおじさんの繋がりになるほどと思いました。
無事おじさんと会うことが出来、集合場所に帰る時にアクシデントが起こります。
松のスマホのGPSから松のお母さんに今居る場所がばれてしまいました。先生に通報されると覚悟を決めた三人でしたが、松のお母さんは先生には知らせないと言います。
「なぜ?」と尋ねた誠にお母さんは言います。「帆一郎はね、あなたが学校で一番やさしいって」と。心が温かくなりました。
松のお母さんから感謝を伝えられた時、誠は思います。「僕はこの世界のために孤独なんだ。そう信じ何かし続けるなら、僕と世界は共に支えることができるだろう。それを優しいと勘違いするならすればいい」。誠の人としての本質が少しわかったような気がしました。
少年らしい瑞々しい会話や細やかな心理描写で誠と三人の男子が行動を共にした一日が描かれ、はらはらしながら引き込まれ読みました。
三人の女子が旅行中、誠の笑顔の写真を多く撮った人の勝ちというゲームのことを聞いた誠は「自分の知らないところで何かが起こってるのだけがうれしいんだ。それでずっと一人でも平気なんだ」と思います。複雑な家庭環境の下で、孤独を受け入れた誠の強さを感じました。
旅行を通して、七人の間に徐々に友情が芽生えて行きます。それぞれの青春時代の瑞々しい思い出としていつまでも残るのではないでしょうか。
読後、爽やかな感動が込み上げてくる物語でした。

今日が幸せな一日でありますように。