ご挨拶
こんにちは、こんばんは、ちまです。
今日お話しするのは、藤岡陽子さんの「リラの花咲くけものみち」です。
本作品は、第45回吉川英治文学新人賞受賞作です。
藤岡陽子さんは、新聞記者を経てタンザニアに留学し、帰国後は看護師の資格を取得して現役の看護師として勤務されています。
命の重みや大切さがテーマの作品を多く執筆され、ドラマや映画化された作品もあります。
獣医師を通して、命の重みを描いた本作品もドラマ化されています。
ひとり言
藤岡陽子さんの「リラの花咲くけものみち」を読みました。
岸本聡里は十歳の時に母親を亡くし、その一年半後父親が再婚します。聡里は再婚相手の義母が、自分が学校に行っている間に、心の支えである愛犬のパールを処分するのではないかという恐怖心から学校に行けなくなります。
三年半ぶりに聡里に会いに来た母方の祖母の牛久チドリは聡里を見て、今の聡里の状況を察し、すぐさま聡美を引き取ります。チドリの素早い行動には、頭が下がりました。
聡里は、チドリが住む都内の古い一軒家で、パールやチドリが飼っている老犬や猫、ウサギ、ハムスターと一緒にこれまでと全く違った穏やかな暮らしの中で過ごします。
そして都立のチャレンジスクールへ進学した聡里は、塾の教師の強い薦めもあり、獣医師を目指し大学を受験し合格します。ここでも、家を売り払い学費を用立てるチドリの行動力の凄さを感じました。
物語は、聡里が北海道の大学で寮生活をスタートするところから始まります。
寮まで付き添ってくれたチドリを見送った帰り道、聡里は同級生の久保残雪と出会います。その出会いは、その後の二人にとってかけがえのないものになります。
その後買い物した帰り道で、聡里は道路沿いにうずくまっている一匹の柴犬を見つけます。
寮に連れて行く訳にもいかず途方に暮れていた時、偶然車で通りがかった寮長で獣医学類三年生の静原夏菜と、五年生の加瀬一馬と出会い助けてもらいます。
この二人との出会いは、その後の聡里に大きな影響を与えます。
寮生活にも慣れてきたある日、聡里はルームメイトの綾華が自分を嫌って部屋を変えて欲しいと思っていることを知り、大きなショックを受けます。
けれども、勇気を出してこれまでの自分の過去を話すことによって、綾華との距離は縮まり、その後親友となって行きます。自分の思いを言葉に出して相手に伝えることの大切さを強く感じました。
夏休みに綾華と臨床実習に参加した聡里は、馬のお産を通して命の選択の厳しい現実を目の当たりにし激しいショックを受け、臨床実習を初日で辞め東京のチドリの元へ逃げ帰ります。
聡里の母・有紀子が15歳の時に5年後の自分に宛てた手紙をチドリから手渡され、心臓の悪い有紀子が命懸けで聡里を産んだことを聞き、心配して連絡をくれた綾華にも勇気づけられ、聡里は臨床実習に戻る決心をします。
それからの聡里は一馬への一途な想いを抱きながら、動物病院で実地経験を積み成長していきます。
一馬の卒業式の日、想いを告げる決心をした聡里でしたが、夏菜と一緒にいる一馬を見かけた聡里は、想いを告げる事も無く恋は終わります。傷心の聡里を支えたのは、綾華と入寮した日に出会いいつもさりげなくそばにいる残雪でした。
卒業後は、犬や猫などの伴侶動物を診る獣医師を目指していた聡里でしたが、様々な立場で動物と関わり合う人達と接する中で、家畜や大型の経済動物を診る獣医師の苦労や喜びを知り悩みます。
脳梗塞で倒れ左半身の麻痺が残った後のチドリのリハビリに対する前向きな姿勢には勇気づけられ、聡里への遺言には胸が熱くなりました。本当に見事で素敵なおばあちゃんです。
聡里にとってチドリがかけがえのない祖母であったように、チドリにとっても、聡里が生き甲斐になっていたのではないかと思いました。亡くなった後も、ずっとパールと共に聡里のことを見守って聡里の心の支えになっているのではないでしょうか。
チドリの葬儀を終え北海道の戻った聡里を空港で迎えた残雪は、「初めて会った時、同じ羽の模様が見えた」と、これまでの想いを告げ聡里にプロポーズします。鳥のひとと呼ばれる残雪らしい想いの伝え方と思いました。
大学卒業後、聡里は産業動物の獣医師として働く道を選び、チドリに見守られながら、希望に満ちた未来へ向かうリラの花咲くけものみちを、残雪と共に歩んで行きます。
獣医という仕事を通して生命の尊さというものを深く感じると共に、自然と人の温かさの重みを感じる素敵な物語でした。
今日が幸せな一日でありますように




