【小説】小林 由香「この限りある世界で」【感想・あらすじ】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
先日、いつもとは違う駅で下車してみました。初めて降りる駅でしたが、ちょっと懐かしくなるような町で散策がとても楽しかったです。
美味しいラーメン屋さんも発見したので、また行ってみようと思います。
今日お話しするのは、小林 由香さんの「この限りある世界で」です。

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あらすじ

中学三年生の穂村マリアが同級生の遠野美月に刺殺される事件が起こります。
美月は事件を起こす前日、ネット上に、「シルバーフィッシュ文学賞の最終選考に落選し、哀しいので明日、人を殺します」という言葉と落選した自分の作品をを公開していました。
その後、シルバーフィッシュ文学賞を受賞した23歳の青村信吾は、事件は自分が受賞したために起きたと思い、嫌がらせも相次ぎ、自殺します。
信吾の担当編集者になった小谷莉子は、美月のネットを見て衝撃を受けます。
美月は犯行動機を二転三転させ、面接に訪れた篤志面接委員に「本当の犯行動機を見つけてください」と言います。
一つの殺人事件に端を発する悲劇の連鎖が描かれた切ない感動の再生ミステリーです。

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ひとり言

小林 由香さんの「この限りある世界で」を読みました。
横浜の市立中学で、中学三年生の穂村マリアが同級生の遠野美月(とおのみづき)に刺殺される事件が起こります。
美月は事件を起こす前日、ネット上に、『ムホウ』という自分の作品と「美しい月」というユーザ名のプロフィール欄に、「シルバーフィッシュ文学賞の最終選考に落選し、哀しいので明日、人を殺します」という言葉を公開していました。
その年のシルバーフィッシュ文学賞に選ばれたのは、23歳の青村信吾(あおむらしんご)の『プラスチックスカイ』という作品でした。
信吾の作品に魅せられ、その後信吾の担当編集者になった26歳の小谷莉子(こたにりこ)は美月のネットを見て衝撃を受けます。
信吾は、ネット上に公開された美月の作品と自分の受賞作品を比較され傷つき、殺人の起きた原因は自分が受賞したことにあるのではないかと思い悩み、内定取り消しを望みます。その後も「コネで受賞したのではないのか」といった嫌がらせが相次ぎ、精神的に耐え切れなくなり自殺してしまいます。
一年前に父親を病気で亡くし、一人になった母親を残して自殺した信吾の追い詰められた心情が胸に深く突き刺さります。心に残る素晴らしい作品を執筆することで、自分に自信を持って生き抜いて欲しかった。
白石結実子は篤志面接委員として、千葉の新緑女子学院に送致された遠野美月のところへ行って、小説の書き方を教えて欲しいと頼まれます。篤志面接委員は、少年院などの矯正施設に収容されている者の更生と社会復帰を手助けする民間ボランティアです。
結実子は母校の高校に教育実習に行った時、小説家になりたいという青村信吾に、「夢が叶うと良いね」と応援したこともあり、事件の真相を知るためその仕事を引き受けます。
美月に面会すると美月は、「なぜ、ボランティアをするのか」「私の本当の犯行動機を見つけてください」などと結実子に言います。結実子は「更生」というテーマで60枚の原稿を書くよう言い、最初の面会を終えます。
供述内容と犯行動機が度々変わる美月に、結実子は何度も面会し、犯行動機を解き明かそうとします。
莉子も結実子もそれぞれの立場で、信吾の自殺に対して責任を感じ苦しい思いをしています。
一つの殺人事件に端を発する悲劇の連鎖に、切ない思いを抱きながら読み進めました。
終盤、莉子と結実子、信吾の関係が明らかになった時は唖然としましたが、自然な流れとして受け止めることが出来ました。
信吾の担当編集者としての莉子、かつて教育実習生として信吾と関わった結実子、「新人賞なんて受賞しなければよかったのに」という信吾の母の慟哭。
亡き母親を侮辱されたことによる、一人の少女が起こした殺人事件による取り返しのつかないあまりにも悲しい結末に、切なく胸が苦しくなりました。
莉子の退職後、元先輩同僚から届いた刊行予定の「プラスチックスカイ」の本と手紙は感動的で、改めて信吾が亡くなった無念さと出版されることになって良かったという思いが胸によぎりました。
残された人それぞれの再生の物語ですが、信吾には生き抜いて「プラスチックスカイ」を上回るような新たな作品を数多く執筆して欲しかった。
忘れられない過去のトラウマから立ち直り生きて行くことの困難さと共に、SNSの怖さを痛感しました。
傷ついた心は、「この限りある世界で」自分に正面から向き合い自分と闘うことでしか治すことが出来ないのではないかと思いました。
信吾が『プラスチックスカイ』に書いた最後の言葉、「この物語を他の誰でもなく、たったひとりの大切な読者へ」という言葉が一読者としていつまでも胸に残りました。

今日が幸せな一日でありますように。