【感想】寺地 はるな「水を縫う」【あらすじ付き】

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ひとり言
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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
雨の日が続いていますね。
洗濯物がカラッと乾く太陽が恋しいです。
今日お話しするのは、寺地はるなさんの「水を縫う」です。

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あらすじ

松岡清澄、高校一年生。一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている清澄は、かわいいものや華やかな場が苦手な姉のため、ウェディングドレスを手作りすると宣言するが―。
いつまでも父親になれない夫と離婚し、必死に生きてきたけれど、息子の清澄は扱いづらくなるばかり。そんな時、母が教えてくれた、子育てに大切な「失敗する権利」とは―。

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ひとり言

寺地はるなさんの「水を縫う」を読みました。

松岡清澄は高校一年生。祖母と母と姉との四人暮らしです。両親は、清澄が一歳の時、離婚しています。

この物語の主な登場人物は、松岡一家と離婚した父、その父の友人の六人です。そして六章のうち、一章と六章は清澄の視点で、残りの四章は姉・水青、母・さつ子、祖母・文枝、そして父の友人の黒田のそれぞれの視点で語られています。父親の全の視点での語りはありません。けれども、最終章での清澄の語りでその存在感が浮き彫りになってきます。

清澄は、手芸をすることが大好きです。小さい頃から祖母に習いながら手芸を楽しんでいます。

けれども、学校では「男なのに」と、手芸好きをからかわれ、母のさつ子は清澄に、普通の男の子のように、スポーツをやってほしいと思っています。

姉の水青は、かわいいものや華やかな場が苦手です。そのため、結婚を間近に控えていますが、派手な結婚式はしたくないし、ウェディングドレスも、かわいく派手なデザインのものは着たくないと思っています。水青が、かわいいものに嫌悪感を抱くのには、訳がありました。水青が小学六年生の時、塾の帰りに男に追いかけられて、かわいいデザインのスカートを切られたのです。男が去り際に「かわいいね」と言った言葉がずっとトラウマになっていたのです。

そんな水青を見て、清澄は自分が水青のウェディングドレスを作ると言い出します。

清澄は水青の希望に沿うよう、いろいろなデザインを描いて水青に見せますが、水青はなかなか納得しません。それでも、祖母の助けを借り、試行錯誤しながら姉のウェディングドレスの製作を続けます。

母のさつ子は市役所に勤めながら、現実を見ようとしない夫と離婚し、必死に生きてきました。けれども、子どもたちに対して、母親として十分な愛情を注いで来なかったのではと引け目を感じています。

離婚した夫の全は、服飾の専門学校を出て、アパレルメーカーに勤めた後、現在は専門学校時代の同級生だった黒田の会社に一応デザイナーという肩書きで雇ってもらっています。

祖母の文枝は「女性は妻として、母としてこうあるべき」という考えが押し付けられていた時代の中で、夫の心ない一言に酷く傷つけられたことがあります。その傷は、誰にも言えないまま、ずっと尾を引いていました。けれども、友人や清澄の応援もあり、七十四歳でこれまで封印していた水泳に挑戦し、これまで閉ざしていた自分の心を解放しようとします。

文枝が子育てに悩んでいるさつ子に言った「降水確率が50パーセントとすると子供に傘を持っていきなさいって言うけど、傘を持って行くかどうかは本人が決めること。本人には、失敗する権利と雨に濡れる自由がある」という言葉が、物事にはそうした捉え方もあるのだと、とても印象に残っています。

黒田は、服飾の専門学校を卒業して、父親が経営していた「黒田縫製」の後を継いでいます。全とは、服飾の専門学校で知り合いました。そして現在は、自分が経営する縫製工場で全を雇っているだけでなく、自宅続きのかつての社員寮に彼を居候させています。清澄たちが幼い頃には面倒をみたり、今は全の代わりに養育費を届けたりと、黒田はこの家族にとって、本当になくてはならない存在です。黒田と全の関係は側から見ると、ちょっと不思議な関係ですが、血は繋がっていなくても松岡家の人たちにとって黒田は、家族同然の存在なのです。黒田は清澄を息子のように、清澄は黒田をもう一人の父親のように思っています。

黒田が清澄に養育費を届けに行った時、清澄から、来月に控えた水青のウェディングドレスの製作が難航しているので、全に手伝ってくれるように頼んでくれないかとの、相談を受けます。全は、清澄が頼んでも、「今さら父親面でけへん」と引き受けませんでした。

黒田は、強引に押し切るしかないと、清澄と水青に全の所へ来るように言います。

清澄と水青が来ると、全はまず、水青が苦手意識を感じなくてすむ素材選びから始め、デザイン、縫製へとみるみる仕上げていきます。素材選びの途中で全は言います。「本人が着とって落ちつかへんような服はあかん。座っとるだけでいらいらして、肩に力が入ってしまって、疲れてしまう。疲れると自分で自分が嫌いになる。」と。

また完成した全の作ったドレスを着た水青の姿を表した「自分に合った服は、着ている人間の背筋を伸ばす。服はただ身体を覆うための布ではない。世界と互角に立ち向かうための力だ。」という文章を読んで、これこそ、全が目指す服への姿勢だと思いました。夫としても、父親としても、息子としても、友人としてもいまいちな全が、水青のウェディングドレスの製作に取り掛かると、水を得た魚のごとく、見事にドレスを仕上げていくのです。

この時の経験は、これからの全にとっても大きな財産になったのではないかと思いました。

これから、きっと服作りの上で、黒田の良き相棒になって行くのではないでしょうか。

清澄が「結局、ドレス、自分の手でつくれんかったな」と言うと、黒田が白い布に白い糸で刺繍をするホワイトワークをドレスにしてみたらどうかとアドバイスをします。

清澄は水青にふさわしい刺繍のデザインがなかなか浮かばない中、ふと、全がつけた自分達の名前の由来を思い出します。それは、「流れる水はけっして淀まない。流れる水のような生き方をして欲しい」という思いに由来するものでした。

その流れる水をイメージして 、結婚式に間に合うよう、学校も休んで不眠不休で刺繍に取り組みます。

そして、出来上がった刺繍を見て、水青が「ありがとうね」というと、清澄は答えます。「僕はただ、刺繍がしたかっただけやし」と。清澄にとって、手芸をすることは、極々「普通」のことなのです。

この「家族」の6人は不器用ですが、それぞれにこだわるものがあります。そして、自分のことを理解してもらえないことに息苦しさを感じていました。

けれども、さまざまな出会いや体験を通して、次第に「らしさ」とか「普通」の呪縛から解放されて行きます。水青のウェディングドレスの製作が、良いきっかけになったのではないでしょうか。

私の中にも「普通」から外れることの不安から、知らず知らずのうちに、「普通」であることを演じている自分がいるのではないかと思いました。

社会の「普通」と自分の「普通」との間にギャップがあると、本当に生きづらいと思います。

「普通」とか「らしさ」にあまり囚われないで「自分らしさ」を見失わないように

生きて行きたいと思うと同時に、相手に対しても「普通」とか「らしさ」に囚われないで、「その人らしさ」を受け入れ理解することが、大切な事だと思いました。

そして、多様なものを受け入れることの出来る寛容な社会の必要性を感じました。

今日が幸せな一日でありますように。