ご挨拶
こんにちは、こんばんは、ちまです。
先日、初めて朗読を投稿しました。
初めての朗読だったのでとても緊張しました。
今日お話しするのは、小野寺史宣さんの「ひと」です。
あらすじ
女手ひとつで僕を東京の私大に進ませてくれた母が、急死した。
僕、柏木聖輔は二十歳の秋、たった独りになった。大学は中退を選び、就職先のあてもない。
そんなある日、空腹に負けて吸い寄せられた砂町銀座商店街の惣菜屋で、最後に残った五十円のコロッケを見知らぬお婆さんに譲ったことから、不思議な縁が生まれていく。
ひとり言
小野寺 史宣さんの「ひと」を読みました。
この物語は、柏木 聖輔の20歳の秋から21歳になった夏にかけての、約1年間が描かれています。
聖輔の父は、聖輔の母の故郷の鳥取で居酒屋を開いたものの経営に失敗して、調理師として働いていましたが、3年前に車の事故で亡くなります。
その後母は、学食で働きながら女手ひとつで、聖輔を東京の大学に進学させます。聖輔は、上京して、一人暮らしをし、バンド活動やアルバイトをしながら大学生活を送っていました。そうした中、聖輔が大学2年生の秋、母が急死して、聖輔は一人になってしまいます。
母の納骨まで終え、東京へ帰ってきた聖輔は、経済的理由で大学を中退します。何か仕事を見つけなくてはと思いながらも、なかなか前に進むことのできない日々が続きます。
そんなある日の午後、空腹のため吸い寄せられるように、商店街の総菜屋に入ります。そこで、残り1つのコロッケをお婆さんに譲ったことをきっかけに、「おかずの田野倉」という惣菜屋でアルバイトをすることになります。聖輔にとって、その後の人生を大きく変えることになる田野倉との出会いでした。
聖輔は、「おかずの田野倉」で働くことで、店主の田野倉や同僚との信頼関係を築くことが出来、店に来るお客さんや同じ商店街のお店の人達とも温かい繋がりを持つことができるようになります。それと同時に、調理師免許をとるという大きな目標もできました。
鳥取から上京して大学に通う高校の同級生の井崎青葉との再会やバンド仲間との以前と変わりない付き合いも、聖輔にとって大きな心の支えになります。また以前父が働いていた店を訪れて会った父の同僚や当時の店のオーナーからも、温かい言葉をかけてもらいます。
母の死後、聖輔に何度もお金の無心にくる親戚から、聖輔を守ってくれたのは、店の先輩でした。その時、一人で何もかもを抱え込もうとする聖輔に、店主の田野倉は言います。「聖輔は人に頼ることを覚えろ」と。そして聖輔は、バンド仲間の母親からも似たようなことを言われたことを思い出します。「頼っていいと言っている人に頼るのも大事だと」。母親が亡くなってから、何でも一人で解決しなければと思い込んでいた聖輔にとって、気持ちが楽になる本当に温かい言葉です。
そうした人々との出会いにより、聖輔は自分は一人きりではないと思えるようになって行きます。
青葉が店を訪れた時、彼女は元彼の高瀬 涼と一緒でした。その時連絡先を交換して、その後会います。聖輔は、母親が亡くなったことや大学を辞めたことを話し、青葉も母親が再婚して名字が変わったことや、再会した時に一緒にいた高瀬のことなどを話します。高瀬は、もう一度青葉と付き合おうとしますが、青葉は高瀬との価値観の違いに悩んでいました。二人はその後も連絡を取り合い、お金のかからないデートを楽しみます。二人は、考え方や金銭に対する価値観が似ていて、お互いにかけがえのない存在になっていきます。
そして、道を譲り、ベースを譲り、田野倉の跡継ぎの座も先輩の同僚に譲ってきた聖輔にも、譲れないものができました。「青葉」です。最後の一行に聖輔の想いが全て込められています。「おれは青葉が好き」 この一年で成長した、聖輔の力強い重みのある言葉です。
人との出会いは、良い出会い、そうでない出会いと様々な出会いがあります。聖輔の不器用で真面目な生き方に温かい手を差し伸べてくれるひと、そんな聖輔を利用しようとする人など様々です。どうしても一人で対処出来ない時は、頼っていいと思っている人に頼ることも大事なことです。聖輔の人柄に、応援して手を差し伸べてくれる多くの人がいました。私もずっと聖輔のことを応援しながら、読み進んでいました。
両親を亡くし、兄弟もいない聖輔は一人になったけれど、人との新たな出会いによって、孤独ではなくなりました。
自分のことを温かく見守ってくれる「ひと」の存在は、「ひと」を強くする力があるのだと感じた物語でした。
今日が幸せな一日でありますように。