ご挨拶
こんにちは、こんばんは、ちまです。
風の強い日が続いて外を歩くと寒いです。
今日お話しするのは、小林由香さんの「チグリジアの雨」です。
あらすじ
東京の進学校に通っていた、高校一年の成瀬航基は、母の再婚をきっかけに、ある田舎町に引っ越すことになった。
転入して間もない学校生活は順調に進んでいたが、そんな状況が一変し、突然いじめのターゲットになってしまう。
いじめは次第にエスカレートしていき、航基は身も心も耐えられなくなっていく。
不条理な目に遭うたびに心は削られ、誰にも相談できずに、我慢の限界を迎えた航基が出した結論は「死」。
地元で『ゴーストリバー』と呼ばれる河を自殺の場所に選ぶが、その河でほとんど学校にも登校せず、真面目に授業も受けない、クラスメイトの月島咲真と出会う。
そんな咲真が航基に対し、「報復ゲームに参加しないか」という衝撃的な一言を放つ――。
ひとり言
小林由香さんの「チグリジアの雨」を読みました。
この小説は『いじめ』を題材にした物語で、読みながら胸が痛くなりましたが、目を逸らしてはいけないと思いながら読み進めました。
成瀬航基は、東京の進学校から母親の再婚のため転校します。けれども転校先の高校の体育教師である母親の再婚相手が、女子生徒にセクハラをしたという噂が流れ、酷い虐めに遭います。いじめの首謀者は、彼女に好意を寄せる男子生徒でした 。航基は理不尽な理由から虐めに会い、心身ともに痛めつけられます。虐めをする側からすれば、理由など何でもいいのではないかと思いました。
心身ともに限界を越え、自殺しようとした航基が出会ったのは、クマのぬいぐるみを抱えた色白で儚げな、クラスの中で特異な存在の月島咲真でした。航基は、咲真の「今すぐ死ぬか、それとも誰かの役に立ってから死ぬか。お前は稀に見る逸材だ」という言葉に奇妙な希望を感じ、取り敢えず自殺を思い留まります。
咲真は、「俺が神なら、雨に紫の色をつける。紫は痛みの色だから。その後大地からチグリジアの花が咲いた時、ようやく人間は『今は苦しんでいる人が多い時代だ』と気づくのだ」と言います。多くの苦しんでいる人に気づこうとしない社会に対して苛立ちを感じ、自分で何とかしようとする咲真の使命感を感じました。この物語は、航基の目線で描かれていますが、ミステリアスな咲真の存在に引き込まれます。
咲真は、「理不尽に人を苦しめた者に同等の痛みを感じさせる日」として、11月25日を「世界報復デー」と制定して、航基のパソコンから、世界中の傷つき死にたいと思っている10代の青少年にメールを送っています。
航基は、咲真が何をやろうとしているのか明確にはわからないものの、咲真と行動するうちに、自分と同じように理不尽な虐めで苦しんでいるクラスメートに会い、辛い思いをしているのは自分だけではないのだと知ります。航基は今迄一人で抱えていた孤独感から、少しは救われたのではないかと思いました。
航基は、咲真と出逢うことによって少しずつ変わって行きます。航基と咲真の間に、目に見えない絆を感じました。咲真はまた学校に来なくなりますが、航基は咲真の「常に真実に目を向けろ」という言葉に励まされ、継父の無実を知り、虐めをしていた者に自らの意思で反撃をします。
けれども11月25日、「世界報復デー」の10日前、担任が教室で、今朝咲真が息を引き取ったことを告げます。咲真は5歳の頃から、死に直面する病と闘っていたのです。
理不尽な虐めのために自らの命を断とうとした航基と、自らの限られた命を青少年の命を守るために闘った咲真。「命を粗末にしないで、何としてでも生き抜いて」という咲真の心の叫びが聞こえてきます。
虐めを無くす確固たる手段が確立出来ないのであれば、傷つき苦しんでいる青少年に『助けてと叫ぶ勇気を持って、何としてでも生き抜いて欲しい』と訴えかけるしかないのかと焦燥に駆られました。そうした中、航基のじいちゃんや咲真の祖父のセッちゃん、セッちゃんに助けられ調査会社を運営している石田さん等、苦しみ辛い思いをしている者の力になろうとする大人の存在の大きさを感じ、そうした人の存在の重要性を痛感しました。
チグリジアの花言葉は、「鮮やかな場面。誇らしく思う。私を愛して、私を助けて」です。闘い続けた咲真と航基に私は「誇らしく思う」という言葉を贈りたいと思います。
読み終えた後、表紙の自転車に乗っている航基と咲真を見つめていると、無くならない虐めに命がけで闘った二人の少年のことが思い出され、再び切なさが込み上げてきました。
二人の少年を通して、命の重さと無くならない虐めに一石を投じた奥深い小説です。
今日が幸せな一日でありますように。