【小説】畠山 丑雄「叫び」【あらすじ含む感想】

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ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
今日お話しするのは、畠山 丑雄さんの「叫び」です。
畠山 丑雄さんは1992年に大阪府吹田市で生まれ、京都大学文学部在学中の2015年に「地の底の記憶」で第52回文藝賞を受賞し、小説家デビューされます。
2025年、「改元」で第38回三島由紀夫賞候補になり、2026年、「叫び」で第174回芥川龍之介賞を受賞されました。
派手な展開はないものの、登場人物たちの、言葉で上手く言い表わすことのできない感情や心の動きがわかりやすく丁寧に描かれた作品は心に響きます。
過去と現代の繋がりをテーマにした作品は、深い感動を覚え心に残ります。
本作品は、過去と現代の時代を超えた繋がりが、歴史の影に埋もれた声を戦後の現代に伝える作品です。

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ひとり言

畠山丑雄さんの「叫び」を読みました。
大阪府茨木市に住む37歳の早野ひかるは、地方公務員として働く独身の男性です。
結婚まで考えていた女性に突然去られて生活は荒れ、お金も使い果たし、自暴自棄の日々を過ごしていました。
そうしたある夜、遠くから聞こえる鐘の音に導かれて行くと、そこには生活保護を受けて暮らす一人の男がいました。
その男は早野の心の深層を見抜き彼のことを激しく否定しますが、彼の虚無感は次第に解消され、男のことを「先生」と呼び敬い、彼の指導のもとで銅鐸づくりや茨木の来歴を学ぶようになります。それと同時に、以前図書館で会い、先生の銅鐸鋳造体験会で助手をしている時に再会した長田しおりと交際するようになります。
早野は茨木市の郷土史を学ぶ中で、この地は戦時中、罌粟栽培と阿片製造が盛んで、それを満州に売って得たお金は、関東軍の資金源になってたことを知ります。
一風変わった先生や早野を通して、戦争や阿片製造、天皇制など、重いテーマが物語に入ってきます。
1938年、茨木で罌粟栽培や阿片製造を学んでいた青年・川又幹朗は、師匠と共に満州に渡ります。
彼は、天皇陛下ご裁可の下、満州の広大な大地を罌粟畑で埋め尽くし、「陛下のための花束」を編むことに夢を抱いていました。そして郷里に戻ったら、1940年開催予定の「紀元2600年記念万博」に行くことを楽しみにしていました。
それから約90年後、早野は川又のこうした生き方に共感を覚えます。
そして、過去と現実の世界が交錯して、早野は川又と会話をするようになります。
戦争のために開催されず、川又青年が行くことのできなかった「紀元2600年記念万博」 と、早野がしおりと行く約束を交わした「2025年開催の大阪・関西万博」、二つの万博を通して、早野は川又青年と自分とを重ね合わせます。そして、時代は昭和から令和へと繋がり、これまで封印されていた叫びが現代に響き渡ります。
作品の中で、政治や国家、そして「聖(ひじり)」という国家を統合するための精神的支柱の存在が描かれています。
読後、過去の歴史をどこまで現代に繋げるべきかを問われているような気がして、過去に起こった悲劇を二度と繰り返さないためにも、戦後に生まれた私たちは過去の歴史の真実を知っておくべきだと思いました。そして、これがこの小説の重厚なテーマの一つなのかと思いました。
気がついたら、知らず知らずのうちに読み終えていました。
土地の歴史から国家の歴史へと繋がり、心に残る読み応えのある一冊でした。

今日が幸せな一日でありますように