【小説】村山 由佳「天翔る」【感想・あらすじ】

スポンサーリンク
ひとり言
スポンサーリンク

ご挨拶

こんにちは、こんばんは、ちまです。
先日、エレベーターで犬を連れた親子が乗ってきました。エレベーターに乗る寸前に犬が吠えだし、お母さんが「吠えちゃだめだよ!」と叱りました。それを聞いていた2歳くらいの男の子が犬に向かって「ほえあえ!」と言いました(笑)本人的には「吠えちゃダメ!」と言ってるつもりみたいで、お母さんが「そうだよね。吠えちゃダメだよねー」と男の子に言うと男の子は得意げに「ほえあえ!」を連呼していました。数十秒の短い間での出来事でしたが、とても癒された幸せな時間でした。
今日お話しするのは、村山由佳さんの「天翔る」です。

スポンサーリンク

あらすじ

看護師の大沢貴子は、11歳の岩館まりもと知り合います。
まりもは、父親が鳶職であったことが原因でいじめを受けている最中、父親が事故で急死し、学校に行けなくなっていました。
貴子は、まりもを自分が通う乗馬牧場のシルバー・ランチに誘います。
まりもはそこで、エンデュランスという乗馬耐久競技を知り、世界最高峰テヴィス・カップ・ライドに挑みます。
それぞれに喪失感を抱えた者達が、馬を通して生きることに前向きになって行く感動の物語です。

スポンサーリンク

ひとり言

村山由佳さんの「天翔る」を読みました。
物語は「あのな、まりも。父ちゃんはこれから遊園地へ行こうと思うのよ。お前、一緒に行く?」というまりもの父親の岩館蓮司の言葉で始まります。
そして、蓮司に連れて行かれた競馬場での、競馬馬『ヤミヨノカラス』との出会いが、その後のまりもの人生に大きな影響を及ぼします。
まりもは、大好きな父親が鳶職だったことを揶揄われ、同級生からいじめを受けます。蓮司は妻に出て行かれた後、祖父母と共に男手ひとつでまりもを育てていました。そうした中蓮司が事故で急死し、まりもは学校に行けなくなってしまいます。
札幌で看護師をしている大沢貴子は、学校に行けなくなったまりもと知り合い、まりもを自分が通っている志渡銀二郎の営む乗馬牧場のシルバー・ランチに誘います。
貴子は、小学校5年生の時に母親と関係のある男にいたずらをされ、それ以降、男性に対して恐怖を感じるようになっています。今貴子は、シルバー・ランチの馬たちに癒されながら、日々を過ごしています。
志渡は、同じ夢を追い信頼していた親友の酷い裏切りに遭い、酒浸りの日々を過ごした結果、妻と子どもも失います。そんな志渡を救ったのは、シルバー・ランチの経営と馬たちでした。傷ついた二人を救ったのは、馬たちでした。
祖父母の許可を得て、貴子と共にシルバー・ランチに通い出したまりもは、銀二郎や貴子に見守られながら、乗馬を教わったり、馬たちの世話をしたり、馬の出産に立ち会ったりしながら、馬たちと触れ合うことで段々と立ち直って行きます。出産に立ち会い産まれた馬との辛い別れもありました。父親を亡くし、愛馬も亡くしたまりもの心を思うと本当に辛くなりました。
そうした生活の中まりもは、周りに恵まれていることを自覚していても「自分だけが一人だ」と感じた時、亡くなった父親に会いたくなり、常習的な自傷行為をしてしまいます。孤独を感じ、どうしようもなくなった少女の心の叫びです。けれども、愛する馬との信頼関係を糧に苦しみや辛さを乗り越えて行くことで、まりもは心身共に成長して行ったように感じました。
様々なレースを経験し、まりもは、志渡や貴子、そして、エンデュランスの普及に力を注ぐ漆原たちの力を借りながら、漆原と共にエンデュランスの世界最高峰のレースであるでテヴィス・カップ・ライドに挑みます。
エンデュランスは、『騎手は常に騎乗馬の状態に気を配る必要がある』という長距離耐久レースです。想像を絶する過酷なレースですが、こよなく馬を愛するまりもに取って、相応しいレースだと思いました。
人馬一体となった過酷なレースの描写は、読んでいて息つく暇もありませんでした。レースに携わる多くの人がまりもを支えます。どうか完走出来ますようにと、祈りながら読み進めました。
ゴール直前でのまりもとサイファのこれまでに築かれた信頼関係でゴールする場面の描写には、惹きつけられました。
物語の最後には、もう一つ大きなおまけがありました。志渡のまりもへのサプライズプレゼントです。『ヤミヨノカラス』がシルバー・ランチにやって来たのです。まりもが一目惚れした父の蓮司との思い出の馬です。
『望み通りになることなんて、この世にほんのちょっとしかない。でもきっと、ほんのちょっとなら、ある』。まりもが『ヤミヨノカラス』と再会した時 の感動が自分の事のように伝わってきました。そして、私もほんのちょっとを信じて生きて行きたいと思いました。
動物との信頼関係が人の心を癒し、新たな活力を与えてくれる。そしてそれと共に、人が生き物に優しく接することの大切さを再度教えてくれた感動の物語でした。

今日が幸せな一日でありますように。