ご挨拶
こんにちは、こんばんは、ちまです。
今日お話しするのは、幸村しゅうさんの「私のカレーを食べてください」です。
幸村しゅうさんは、映画助監督、介護予防デイサービス兼鍼灸治療院の経営などを経て小説を書き始め、本作品で第2回「日本おいしい小説大賞」を受賞し作家デビューされました。
本作品は料理以外にも学ぶべきことが多く、巻末付録のカレーレシピも含め、手元に置いておきたい一冊です。
ひとり言
幸村しゅうさんの「私のカレーを食べてください」を読みました。
山崎(やまざき) 成美は、幼い頃両親が離婚し父親に引き取られますが、父親は祖母に成美を預けたまま行方不明になってしまいます。
その祖母も認知症となり、成美は7歳から児童養護施設で暮らすことになります。
施設に行く前日の夜、小学校のクラス担任の先生がスパイスを使った本格的なカレーライスを成美のために作ってくれ、そのカレーの味は成美にとって忘れられないものとなります。成美のことを親身になって気遣ってくれた先生のことも、きっと忘れられない存在になっているのではないでしょうか。
18歳で施設を出た成美は、施設で調理員をしている宮さんの「料理をする時には、優しい手を作りなさい。そして、料理を食べる人の顔を思い浮かべ、その人が健康で、元気で、笑顔になる料理を作りなさい」という教えを胸に、バイトをしながら調理師専門学校に通います。宮さんの言葉は、料理をする度に思い出したい言葉です。
成美は調理師専門学校に通いながら自分の将来を模索していましたが、自分にはカレーしかないと決断して、一人暮らしの古いアパートでスパイスを揃え、試行錯誤しながらカレーを作ります。そして様々なカレー店を食べ歩きますが、なかなかこれという店には出会えませんでした。
そうしたある日、体調を崩した成美はスパイスの香りに導かれ、「麝香猫」というカレー店と出会います。そこでカレーを食べた成美はそのカレーの味に取り憑かれ通いつめ、店長にバイトとして雇ってもらいます。
施設を出て一人暮らしをする為に不動産屋で出会った弁護士の豊永悦之(とよながのぶゆき)が、ちょっとしたきっかけで「麝香猫」を訪れます。カレーの味を気に入った彼は、その日から毎日「麝香猫」に通うようになります。
成美が勝手にトヨエツと呼んでいる無愛想でめちゃくちゃ口の悪い彼ですが、その後の成美にとって頼りになる力強い存在になります。
突然の店長の怪我で麝香猫のカレーを任せられた成美は、新しいカレーメニューを出したりSNSで発信したりして店を切り盛りし、お客も増え店の利益も上がってきます。
けれどもそうした中、仕事は出来るものの店に悪影響を及ぼす従業員がいたり、成美を頼りに施設でトロ子と呼ばれていた後輩が訪ねて来たり、信頼していたバイトに裏切られたりと次々と成美に試練が訪れます。
店が放火され、責任を感じた成美は東京から離れたいとアパートを引き払います。
成美のことをずっと気遣ってくれていた店長と店長のパートナーの奈津さんには、合わせる顔がないと、メールで引っ越しの挨拶をします。そして不動産屋に鍵を返却した後、意を決してトヨエツの事務所を訪れます。
毎日カレーを食べに来てくれたお礼と東京を離れることを報告した後、トヨエツは成美に言います。「被害者ヅラするんじゃねえ。もう一度カレーを作る気になったら、真っ先に俺に連絡しろ。カレーの味が落ちてねえか、俺が確かめに行ってやる」。
家族のことで辛い過去のあるトヨエツの精一杯の優しさに溢れた心に響く言葉でした。
カレーから離れ信州の工場で働き出した成美でしたが、やはり食べてくれる人を笑顔にしたいという思いは忘れられず、あるきっかけから、再びカレーを作ろうと決心します。
「私のカレーを食べてください」というための行き先は、もちろんトヨエツのいる東京です。
その後のトヨエツと成美の関係を勝手に想像してしまいます。成美とトヨエツには、優しい手紙を残して成美の元を去ったトロ子の行方がわかったら、力になってあげて欲しいと思いました。
人間関係には良い関係ばかりではなく、ずるい人間や信頼を裏切るような人間との関係もあります。
見守ってくれる人達に助けられながら、そうしたことを乗り越えて自分のやりたいことに邁進する成美を応援したくなるような、読後清々しさを感じる物語でした。
巻末付録のカレーレシピもお見逃しなく!
今日が幸せな一日でありますように




