ご挨拶
こんにちは、こんばんは、ちまです。
インフルエンザで咳が止まらず苦しい日々を過ごしました。
熱が下がりようやくゆっくり寝れるかと思いましたが、突然苦しさで目を覚まし、咳が止まらないという夜がさらに数日続きました。
早く完治したいです。
今日お話しするのは、寺地 はるなさんの「ガラスの海を渡る舟」です。
あらすじ
コミュニケーションが苦手で、他人に協調したり共感したりすることが出来ず、人から疎まれてしまいがちな兄の道。
コミュニケーションは得意で何でもそつなくこなせるけれども、自分の個性を見つけることが出来ず、焦っている妹の羽衣子。
お互いに苦手意識を持っている正反対の性格の二人が、祖父の残したガラス工房を引き継ぐことになります。
ガラス工房を引き継いだ後も度々衝突する二人でしたが、様々な経験をしながら成長し、お互いに相手のことを理解するようになっていきます。
大阪の心斎橋に近いエリアの商店街にあるガラス工房で、道と羽衣子が過ごした10年間の成長の物語です。
ひとり言
寺地 はるなさんの「ガラスの海を渡る舟」を読みました。
祖父が残したガラス工房を引き継いだ兄と妹の10年間の物語です。
兄の里中 道は幼い頃から落ち着きがなく、コミュニケーションが苦手で、他人に協調したり共感することが出来ず、発達障害と思われる言動から、周囲から疎まれています。
妹の羽衣子は、コミュニケーションが得意で何事もそつなくこなせますが、これといった自身の個性を見出すことが出来ず、自分の平凡さに嫌気が差しています。
羽衣子は子供の頃から、手のかかる道に掛かりきりの母に甘えることができず、周りからも兄のことで揶揄われたり、同情されたりして嫌な思いをしてきました。
道は、妹の方が自分より優れていることを受け入れているようなところがありますが、妹に対して少し苦手意識を持っています。
お互いに相手のことを理解できない二人ですが、自分にはないものを持っている相手のことを羨ましく思う時もありました。
二人の父親は、羽衣子が8歳、道が13歳の時に家を出て、女の人と暮らしています。父は離婚を強く希望していましたが、母は意地もあり、応じていません。母は趣味として料理のレシピサイトを運営していましたが、今は「料理研究家・里中恵湖」として、多忙な日々を送っています。
そうした家庭の事情や複雑な親戚関係の中、ガラス工房を引き継いだ後も、価値観の違いから何かと衝突の絶えない二人でしたが、家族や周りの人達、そしてガラス工房を訪れる依頼人達との交流を通して、次第にお互いのことを認め合うようになっていきます。
道の率直な発言や行動は周りの人を困惑させたりしますが、羽衣子が恋人に傷つけらた時には、すぐに相手に会い「自分の大切な妹に謝れ」と怒りをぶつけます。羽衣子もまた、道が精神的に傷つけられたと思った時には、怒りを露わにします。お互いを思いやる絆を感じ、ガラスの作品作りを通して描写された二人の心の変化や時間の流れが、心地良く感じられました。
羽衣子はガラスの作品で、道に差をつけられていると焦りますが、祖父の友人で硝子製作所を経営している繁實(しげみ)さんに、温かい言葉をかけられて励まされます。繁實夫妻は祖父が亡くなった後も、羽衣子と道のことを温かく見守っています。そういう人達が側にいてくれることは、二人にとって本当に幸せなことだと思いました。
道は、高校の同級生の男性を亡くしたことをきっかけに葬儀社に勤めるようになった葉山さんと、祖父の葬儀で知り合います。そして、ガラスの骨壺の製作を通じて親しくなり、次第に惹かれるようになります。道は葉山さんに言います。「その男性と同じように自分を好きになって欲しいとは思っていない。誰も誰かの代わりにはなれない」と。代わりではなく、自分自身を好きになって欲しいという道の一途な思いが葉山さんに届くといいなと願いました。
また羽衣子が恋人に傷つけられた時に言った道の「他人の感情って、コントロールできるものではないという意味では、天候と同じやなって。雨が降ったら、傘を差すように対処すれば良いと思うようになった」という言葉によって、羽衣子の傷ついた心は救われました。人間関係で落ち込んでいる時、心に沁みる言葉だと思いました。
いろいろな経験をしながら、人との関わり合いを通して、二人がお互いを理解し尊重し成長していく過程にホッとしながら読み進めました。
羽衣子は道がガラスの骨壺を作ることを嫌い、道が『骨壺作ります』の看板を掲げる度に取り外していました。けれどもいろいろな経験を重ねるうちに、次第に道が骨壺を作る心情が分かり、自分の作った看板を掲げる描写は微笑ましくて、心がほっこりしました。
読後、表表紙と裏表紙を見返すと、改めて二人の成長を感じることが出来、二人に工房を託して亡くなった祖父も安心しているのではないかと思い、心が温かくなりました。
ガラスの作品作りの細やかな描写を通して、心に温かな余韻の残る物語でした。
今日が幸せな一日でありますように。